全国高校サッカー選手権準々決勝で、今大会最大の番狂わせが起きた。Jリーグ内定3選手を軸に連覇を狙った東福岡が、東海大仰星に完封負けを喫した。

 今大会屈指の攻撃力を誇るとみられたタレント軍団を封じ込めたのは、東福岡伝統のサイド攻撃を分析し、徹底したプレスをかけ、乱れのない組織で守り抜いた東海大仰星の守備だった。

 ◆サイドでの徹底プレス

 東海大仰星の選手は、東福岡の選手がボールを持った次の瞬間、1人、2人、3人と、すかさずプレスにいった。特にサイドの守備は徹底していた。サイドハーフ、ボランチ、サイドバック、センターバック1人の計4人が、ボールを持った東福岡の選手を囲い込んではボールを奪った。プレスは速く、プレスをかける選手間の距離もコンパクトで、東福岡の選手にサイドチェンジをする余裕を与えなかった。

 東福岡の森重潤也監督(51)は「(プレスの)打開策はあったが、選手たちがどういう判断をしたか…やはり、前に行くという気持ちから、ドリブルが多くなってしまって、局面で数的有利を作る崩しにはならなかった」と選手が混乱していたことを認めた。

 東福岡を混乱に陥れ、ボールを奪う回数が増えると、前線に大きくボールを蹴りだし、そこに目がけて攻撃陣が走るキック・アンド・ラッシュ戦法に持ち込み、東福岡を自陣に押し込み、後半は完全に主導権を握った。同26分にセットプレーから先制し、その後は、焦る東福岡にミスが増えたことに乗じ、セカンドボールを拾ってはキック・アンド・ラッシュを繰り返した。

 ◆番狂わせの予兆あった

 番狂わせの予兆は、3日の3回戦にあった。東海大仰星は、2回戦で大量4ゴールを決めた富山第一攻撃陣に対しMF4人、DF4人がしっかりラインを作り、ボールを奪っては前にロングボールを蹴って走るキック・アンド・ラッシュ戦法で2-0と完封勝ちした。MFとDFは、一方が動けばもう一方も並行して動き、ライン間は常にコンパクトに保たれており、試合を通して、ラインが大きくブレることはなかった。

 一方、東福岡は鹿児島城西に1-0で勝利も、後半は慣れてきた相手に押し返される場面が増えた。いったん自分たちのリズムで攻撃できなくなると、パスは回すもののミスが増え、相手に奪われては攻め返される、悪いイメージのまま試合を終えていた。

 東海大仰星の中務(なかつか)雅之監督(34)に東福岡戦後、話を聞くと(1)東福岡の徹底分析(2)指導を実行に移せる選手の対応力を勝因に挙げた。3日の3回戦終了後、東福岡が今大会で戦った2試合と、福岡県大会の試合、合わせて3試合を、選手に通しで見せたという。

 「選手も試合が終わった後、大変だと思いますが試合はフルで見せています。相手の試合を、どう考えて見るかも重要。相手に応じて、それぞれのエリアでの(相手の)プレー判断を把握した中での守備バランスを考えています。(東福岡は)サイドをワイドに使ってきますし、1人でなかなか止まらないこともありますから…ボールの状況で、どういうバランスが取れるか。全体が正しい距離感、バランスを取れるかが大事。日ごろのトレーニングの、積み重ねの中でボールの状況、相手のバランスによって、確認をどれだけするか…反復でしかない」

 ◆選手だけでも話し合い

 東海大仰星のMF松井修二主将(3年)は、中務監督ら指導者から落とし込まれた戦術、情報を、選手の間で徹底的に話し合い、落とし込むことが、守備に乱れがなく、対応力を上げているカギだと明かした。

 「相手のボールの回し方を分析した中で、選手だけで、相手を守備にどうはめるかについて話し合います。監督抜きで選手だけでも話し合わないと、僕らの形として絶対に試合にも現れない。その上で、最後は監督がアドバイスをするんです。今回は前日にしっかり話し合い、はまりました。1人が抜かれても2人目、距離感をコンパクトに守備、というのを意識しています。それをやれば勝てる」

 東海大仰星は、7日に埼玉スタジアムで行われる準決勝で、準々決勝に続き、優勝候補の青森山田と激突する。高円宮杯U-18チャンピオンシップを制し、ユース年代の頂点に立っている優勝候補の最有力・青森山田相手に、どのような守備網を作るか。そんな東海大仰星の守備網を、青森山田がどう打ち崩すか…興味は尽きない。【村上幸将】