尊敬する父へ、愛する妻へ-。セレッソ大阪の元日本代表FW柿谷曜一朗(27)が恩返しの得点王を狙う。C大阪にとって3年ぶりのJ1の舞台となる開幕磐田戦(25日、ヤンマー)を前に、日刊スポーツのインタビューに応じた。自ら「反抗期が長かった」と漏らすエースが、初の得点王と代表復帰を誓った。

 今年に懸ける素直な思い。柿谷の口からあふれ出したのは感謝の言葉だった。

 「反抗期が長かったんです。親を尊敬するということができなかった。構わないで欲しいと思っていた。プロになってからも続いて、お父さんを『お前』と呼んで文句を言った。注意されると、俺が家を出て行こうとするから、親は難しかったと思う。でもお父さんはそんな俺を常に気にかけてくれた。どんな態度をしても味方でいてくれた。近い将来、自分が父親になって、俺みたいな息子が出てきたら同じように接することはできないでしょうね」

 わがままな性格と思われ、時には問題児扱いされ、09年6月から2年半もJ2徳島に期限付き移籍した。だがどんな時も、父吉朗さんは息子を見捨てることはなかった。昨年12月8日にはタレント丸高愛実(26)と結婚。「子供は2、3人欲しい」と家族を意識するようになり、親のありがたみを知った。

 「去年、ケガ(右足首手術)で長期離脱して、苦しかったけど、見えたものがあった。セレッソのスタッフ、愚痴を聞いてくれた仲間。そして奥さん。俺と暮らすために東京から大阪に出てきたのに、どこにも連れて行ってやれなかった。俺は(ギプスで固定したため)車の運転もできひんし、歩くのも遅い。知らない土地に来て、いろんなところに行きたくても、2人で家に閉じこもっているだけ。相当、ストレスがたまっていたやろうけど一切、言わなかった。『そこまで気が利く?』っていうくらい、動けない俺の世話をしてくれた。ケガが治った今は、目標がたくさんできた」

 今季の公約を問うと「言ったことが、その通りになった例がない」と困った表情を浮かべた。それでもプロ1年目の06年にC大阪に在籍し、兄貴分として慕う元日本代表FW大久保(現東京)が「得点王」を目標に掲げていることを伝え聞くと紙に迷わずに書いた。

 「ケガをした去年はサッカーができなかったから。点に飢えている。嘉人さん(大久保)が得点王を公約しているなら、俺も!」

 華麗なプレーと同じように見た目も派手だが、決して大言を吐くことはない。「足元を見てやらなアカン」と発言はいつも慎重だ。だが胸には熱いものがある。代表復帰への思いを聞くと、真剣な顔で漏らした。

 「(14年)W杯で先発したかったですね。(杉本)健勇にも言ったんやけど、俺たちはチャンスやと思う。代表でバリバリやっているキヨ(清武)が加わって、今年はセレッソが見られる機会が増える。そうすれば(代表復帰の)チャンスも出てくるでしょ。何よりも、奥さんを喜ばせたい」

 迷惑をかけた父へ、愛する妻へ。今年の柿谷は、家族へ勇姿を届ける。【取材・構成=益子浩一】

 ◆柿谷曜一朗(かきたに・よういちろう)1990年(平2)1月3日、大阪市生まれ。4歳からC大阪の下部組織でサッカーを始める。06年クラブ史上最年少16歳でトップ昇格。09年6月からJ2徳島へ期限付き移籍し、12年C大阪復帰。14年W杯ブラジル大会に出場し、同年夏にスイス1部バーゼルへ。昨年1月C大阪復帰。国際Aマッチ18試合5得点。177センチ、68キロ。