8日アウェーのサガン鳥栖戦で0-2から逆転勝ちした川崎フロンターレが9日、神奈川・川崎市内で調整を行った。1日のヴィッセル神戸戦、5日の浦和レッズ戦と連戦が続き、疲労に加え長距離移動のハンディがあった。前半を0-2で折り返したが、後半11分からわずか6分間で3得点し、貴重な勝ち点3を手にした。川崎Fが0-2から逆転勝利を手にしたのは12年のアウェー北海道コンサドーレ札幌戦以来、5年ぶり。選手にその戦いの舞台裏を聞いた。

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【試合前のハプニング】

 浦和戦から先発メンバーを2人、入れ替えた。MF中村憲剛(36)とDF登里享平(26)に代わり、当初はMF家長昭博(31)と浦和戦でダメ押し点を決めたFW長谷川竜也(23)を予定していた。だが、試合当日の朝に、長谷川が体調不良で出場を断念。長谷川の代わりに、U-20W杯日本代表のFW三好康児(20)を抜てきし、ベンチ入りメンバー1人を当日に鳥栖へ招集した。また、主将でエースFW小林悠(29)とDF谷口彰悟(25)は試合前に吐き気をもよおし、吐き気止めの薬を服用し試合の臨んでいたという。

 鬼木達監督は振り返る。「連戦だから、最初は少しでもフレッシュな選手を入れようと思っていた」。前半から川崎Fらしくボールを保持し、敵陣で試合を進めていた。MF家長は裏へ抜ける動きや好機を演出するパスを出し、急きょ先発を務めた三好も、何度もチャンスに絡んだ。だが、前半39分と42分に立て続けに失点。0-2で前半を折り返した。

【ハーフタイム】

 前半に2失点し、鬼木監督が動いた。「前半は悪くなかった。0-0だったらそのままいっていたかもしれない。ただ、点が入ったところできっかけが必要だった」。三好に代えてDF登里、MF家長に代えMF中村の投入を決めた。ロッカールームでは「1点取れれば必ずチャンスがある。あせらず1点を取ることに集中して欲しい」と鼓舞した。

 指揮官の思いは選手全員に伝わっていた。FW小林は「こういう試合を勝つことが優勝争いする上で必要だし、お前らの力なら絶対にこの試合勝てるぞ、との言葉が響いた。信頼されていると感じたし、奮い立たせられた」。MF中村も同じだった。「オニさん(鬼木監督)の言葉は大きいと思う。昨日の試合も中2日でアウェーで長距離移動で。何とでも言い訳できる。でも一切そういうのを見せずに、試合の2日前のミーティングから“とにかくタフに戦え、この試合に勝ったらもっと強くなる”と3回ぐらい話していた」。

【大逆転の6分間】

 後半開始から各選手が、鳥栖の足が止まりスペースが生まれていることを感じていた。MF大島僚太(24)は「気持ち的には悲観して臨むことはなかった。前半は、相手選手が動いてしっかり守備をしていたし、頑張ってスライドしていたので。後半始まってすぐスペースも空いてきた」。先発メンバーたちが試合の主導権を握り、相手を守備で走らせていた成果が出ていたのだ。

 後半11分。左コーナーキックを獲得すると、中村と大島の“以心伝心”でショートコーナーを使った。相手がセットプレーでの失点が多いデータは分かっていた。だからこそ、チャンスだと思っていた。中村-大島-中村のパス回しで変化を付け、中村がクロスを上げた。MFエドゥアルド・ネット(28)の頭に当たり、DF谷口の目の前に飛んできた。谷口は「気づいたらボールが来たので足を出した」。これが逆転劇の号砲になった。中村は「1点とったら、まくれるとは思った。ショートコーナーは、前半でやっていなかったし、相手もそのまま蹴ってくると思ったと思う。あれは大きかった。あれで僕たちは行けると思ったし、相手は動揺していた」。

 その2分後に、左サイドバックのDF車屋紳太郎(25)のグラウンダークロスに右サイドバックのDFエウシーニョ(27)が合わせ加点。左サイドバックのアシストで右サイドバックが得点する異例の形だった。この瞬間、エースFW小林は「3点目決めるのは自分だなと思った」との予感を抱いていた。この予感は的中した。後半17分に、DF車屋のクロスをどんびしゃりと頭で合わせ逆転弾。吐き気止めを飲んで臨んだとは思えない鮮やかなヘディングシュートだった。小林は「いいところに来たので当てるだけでした。何か分からないけど、自分がヒーローになるんだ、という感覚だったので。調子がいい証拠かなと」。

 指揮官は「前半見て、後半の入りから2点は取れる自信があった。3点目はどれぐらいのタイミングで取れるかなと思っていた」と振り返る。FW小林らは勝ち越した瞬間、時計を見て「あと30分もある」とすぐに気持ちを切り替えた。守備もしっかりしつつ、隙あらばカウンターで4点目を狙いに行った。だが、連戦の疲れから後半30分以降は動きが重くなった。相手は終盤になるほどパワーを持って攻めてきた。しっかりブロックを組んで耐えしのいだ。倒れるまで走って戦い、勝ち点3をもぎとった。

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 今季の川崎Fは、終盤に耐えて僅差の勝利をものにすることが多くなった。中村は「最後、重心下がりすぎたのは反省だけど、体力的なことを考えたらね」とした上で「みんな状況を読めるようになってきたかな。判断して実行できるようになってきた。無理に突っ込んで無駄なロストが減ったし、成功率が高いプレーが増えてきた」と話す。主将の小林も「戦い方も統一されていた。しっかりつなぐところはつなぎ、カウンター狙えるときは狙う。選手交代して総力戦でしたけど、すごく勝つことにこだわってやれた」と手ごたえを口にした。中2日、長距離アウェーの過酷な状況でつかんだ勝ち点3。後半戦を白星で飾り、悲願のタイトルへ向け、好順位につけている。【岩田千代巳】