東京ヴェルディのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督(60)が、1-2で敗れた10日の松本山雅戦後の監督会見で語った言葉に、非常に考えさせられた。

 ロティーナ監督は会見冒頭の総括で、松本のプレッシャーが強くてスペースを確保できず、自分たちのプレーができずに完全に力負けしたと認めた。その上で「選手を責める気はありません。彼らは全てを出し切った。ただ、相手のプレースタイルが上回ったということ」と自軍の選手をねぎらい、松本をたたえた。

 質疑応答では、前節2日のジェフユナイテッド千葉戦でゴールを決めたFWドウグラス・ヴィエイラを控えに回し、カルロス・マルティネスを先発起用したが機能しなかったことをはじめ、選手起用やシステムなど、監督の采配に疑問を投げかける質問が相次いだ。同監督は会見の最後に、半ば苦笑交じりに語った。

 ロティーナ監督 カルロスはドウグラスとは違うタイプの選手です。まずサッカーでは、相手がいいプレーをしたら、それを認め、祝福するべき。今日は彼ら(松本山雅)が僕らを上回った。ドウグラスがプレーしても、カルロスがプレーしても、それは変わらなかった。負けたらシステムだとか、選手の交代だとか、そういうところに話が集中しますが、相手がいいプレーをしたら相手を認める。サッカーでは、そういうことは起こることです。

 記者も含め日本のサッカーメディアは、試合後の会見で、敗れたチームの監督に選手起用やシステム、戦術に問題がなかったかなど、敗因を問う質問をしがちだ。勝利チームの監督にも、1試合の中で前半と後半の内容に差があった場合などに「課題は?」「修正点は?」などと聞くケースが、ままある。試合を深く掘り下げた原稿を書こうと思うと、どうしても局面での采配、選手の判断などの細かな部分を聞きたくなる。

 ただ、1年を通して戦うリーグ戦においては、試合ごとに相手を徹底分析して試合に臨んでも、勝つ時もあれば負ける時もある。そして1週間後には、次の試合がめぐってくる。外国人監督は会見で敗戦を認め、敗因をコンパクトに分析する一方で気持ちを切り替え、自軍の現状を冷静に見詰め、次の試合について語るケースが少なくない。ロティーナ監督も、総括で松本戦の敗因について語った後、チームの現状を冷静に分析し、見通しを語った。

 ロティーナ監督 今の順位には満足しています。プレシーズン時に考えていた順位を考えれば、とても満足するもので、それは選手の働きによるものです。選手たちを祝福したいし、それを続けたいと思います。

 残り10試合で、昇格プレーオフ圏外の9位という順位が「満足」という言葉に違和感を覚える人もいるだろう。ただ勝ち点50は昇格プレーオフ圏内6位の横浜FCと2差で、自動昇格圏2位のアビスパ福岡との差も7と昇格を狙える位置にとどまっている。会見後、あらためて順位表を見直した時、1月の新体制発表会見が脳裏に浮かんだ。

 東京Vは16年、昇格プレーオフ圏内の6位を目標に掲げながら22チーム中18位に沈んだ。成績は10勝13分け19敗で、勝ち点43はJ3に降格した最下位ギラヴァンツ北九州と5差、入れ替え戦で残留を決めた21位ツエーゲン金沢と4差だった。その結果を踏まえ、竹本一彦GMは新体制発表会見で、次のように目標を掲げた。

 竹本GM プレーオフを争うところに目標を置きたい。昨年は得点43、失点61…得失点差マイナス18と非常に残念な結果。失点を1試合1点(年間の失点を)40点台に落とすのは当然。まず守備ありき。

 松本戦後の成績を見てみると、14勝8分け10敗、得点48で失点37と10試合を残して勝利数は16年を上回った。中でも、竹本GMが最大の課題に挙げた失点は明らかに減っており、改善が見られる。

 選手の意識も変化している。MF安在和樹(23)に、会見でのロティーナ監督の発言を伝え聞き、こう答えた。

 安在 うちは去年、残留争いをしていた。今は昇格プレーオフ争いをしている。松本の1点目は(東京Vの)ミスというか、ちょっとしたところを決めきった。上位との戦いは、ちょっとしたところで点になるかならないかが決まる。一瞬のミスを突くチームが上位にいく。松本と比べたら(試合の中で差はあったが)現状はここまで来た。そんなこと(チーム力の差)は言っていられない。去年は(J3に)落とさない怖さもありましたけど、今は挑戦できている。10試合、全部もったいない試合は出来ないし勝ち点を積み上げる試合をしたい。

 松本戦は1-2の結果以上に内容は完敗だったが、昨季J3降格の危機すらあった東京Vは、残り10試合の段階でシーズン当初に掲げた目標に向かって歩んでいる。「1試合ごとに、あら探しをするのではなく、私の作ったチームを、もう少し大局的に見て評価してもらえませんかね?」。欧州屈指のリーガ・エスパニョーラで20年、指揮を執ってきた智将に諭されたような思いが会見後、胸を占めていた。【村上幸将】