10シーズンにわたってプレーした浦和レッズから今季、湘南ベルマーレに完全移籍したMF梅崎司(31)が、後半42分からかつてのホーム・埼玉スタジアムのピッチに立った。試合後は自らピッチを1周して浦和サポーターの待つゴール裏に足を運んであいさつし、自身が17年まで着ていた背番号7のユニホームを掲げるサポーターの姿と大歓声に涙した。

 梅崎は交代でピッチに入る際、曹貴裁監督(49)に「すみません、気を使ってもらって」と感謝した。「そんな余裕、ねぇよ」と返事が返ってくると「1点を守りきって、ハードワークをして体を張る一心」でピッチに入った。その言葉どおり、ロスタイム4分間含め7分、ピッチ左半分を走り回り、かつてチームメートだった浦和の選手にプレッシャーをかけ続けた。

 アウェー側のロッカーとベンチに入った時は「違和感しかなかったですね。大分トリニータの時に1度ありましたけど、すごい昔なので覚えていなかったですし」と戸惑いがあったという。試合後は、自らの意志で埼玉スタジアムのピッチを1歩、1歩、踏み締めるように歩いた。「あいさつをしていなかった、というのもありますし」。自らの成長を期し、あえて浦和を飛び出すという決断をして電撃移籍したため、浦和のサポーターにあいさつが出来なかった。

 湘南に加入した際は「ブーイングをしてくれ」と覚悟のコメントまで口にしていたが、実際に梅崎を待っていたのは、真っ赤な背番号7のユニホームの数々と「梅、待ってるぜ!」の横断幕を掲げる浦和サポーターだった。「事実上、目と目を見てあいさつ出来た瞬間になって…離れても、これだけたくさんの声援があって、込み上げてくるものがあった」。浦和のゴール裏まで行き、横断幕を贈られると、湧き出る涙を抑えることが出来なかった。「これだけたくさん、僕のユニホームを持ってきてくださる方がいらっしゃるなんて、思いもしなかった。言葉もたくさんもらって…特別な感情が湧いた。本当にうれしかった。良かった」と喜びをかみしめた。

 一方で湘南では今季、リーグ戦7試合に出場も先発は2試合、ルヴァン杯も2試合出場も、いずれも途中出場にとどまっている。曹監督は梅崎の現状について「司は最後、5分くらい緑のユニホームを着て出ましたけど10年、いたクラブから移ってきて…。非常に頑張ってやっているんだけど、湘南のプレーに自分のリズムを合わさなきゃいけないのと、自分を出さなきゃいけないところに時間がかかる。真摯(しんし)にサッカーに向き合っているし、周りへの影響も大きい」と語った。

 梅崎自身、現状に満足はしていない。「この(浦和)サポーターのためにも、移籍した意味を見せなきゃいけないなという思いになりました。プレーで、ここから何を見せられるかだと思う。日々、積み重ねだと思う」と捲土(けんど)重来を誓った。

 それでも、古巣相手にリーグ戦とナビスコ杯(現ルヴァン杯)では、ベルマーレ平塚時代の1997年(平9)7月19日のホーム戦以来、20年9カ月、19試合ぶりの勝利を挙げて気持ちの面では大きな前進があった。「不思議な感覚だったですけど、勝利の瞬間はうれしかったし、みんなの喜んでいる姿を見て込み上げてくるものがあった。ベルマーレの選手なんだなと自分の中で感じました」と笑みを浮かべた。

 そして「長いこと、勝てなかったチームに勝てたことは、チームとしてより成長できるチャンス。その力に自分もなっていけるように、まず自分と向き合って、チームのためにと言う思いで日々、努力していきたい」と前を向いた。【村上幸将】