ラグビーの聖地、東京・秩父宮ラグビー場で10日にルヴァン杯1次リーグFC東京-サガン鳥栖戦が行われる。

同会場でサッカーの試合が行われるのは64年東京オリンピック(五輪)以来、55年ぶり。ラグビー場とサッカー場の違いって何? 注意すべき点はどこ? 以前にラグビー担当として秩父宮に足しげく通った記者が、注目の一戦を前に潜入取材を敢行した。

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秩父宮は、散り始めた桜と暖かな日差しで穏やかな雰囲気に包まれていた。3年前の16年4月23日。スーパーラグビーのサンウルブズが第9節で記念すべき初勝利を収めた日も、競技には暑すぎるくらいの陽気だった。9日、その秩父宮にはサッカー用のラインが引かれた。日本ラグビー協会の前事務局長の小西宏氏は「ピッチは非常にいい状態」と言葉に力を込めた。

55年ぶりとあって、秩父宮を経験している現役選手はいない。普段の試合との最大の違いは照明だろう。Jリーグの主催試合では、照度を表す単位のルクスで最低1500ルクス。中には2000ルクス近い明度を出せる会場もある。対して「秩父宮の照明は1000ルクス」と小西氏。これは、車のランプがつき始める夕暮れ時の明るさだ。

今回は特例で会場としての使用が認められたが、通常より暗さを感じることになる。ラグビー日本代表SH田中史朗(34=キヤノン)に聞くと「上空は真っ暗。特に高いボールは距離感がつかみにくい」。ゴールキックなどの浮き球処理で対応が求められそうだ。

今回は東京のホーム扱いで、できる限りの準備はした。味スタと秩父宮で使われている芝の種類は同じもの。現在の芝に張り替えたのは味スタのピッチも管理する会社だ。芝を短くして早いパス回しを展開したいチームの意向で、普段約25ミリの芝は約20ミリに刈られた。味スタの約15ミリより少し長いが、後日すぐにラグビーの試合が開催される中でぎりぎりまで短くされた。

2年前にピッチ不良が問題になった秩父宮だが、スーパーラグビー参加で管理がより徹底され、試合数が増えたにもかかわらず見違えるほどきれいだ。ピッチ管理会社の池田省治代表取締役は「春は芝の成長時期。ちょうど試合のない期間があったことで、よく育ってくれたようだ」と話す。

東京の“ホーム化”された秩父宮は、バックスタンドとタッチラインの間がわずか約5メートル。味スタにはない至近距離からの大歓声も、東京を後押ししそうだ。【岡崎悠利】

◆秩父宮開催の経緯 東京のホームである味スタは9月開幕のラグビーW杯に向けた改修工事のため平日は使用できない。秩父宮は照明などJリーグのスタジアム基準を満たさない点もあるが、都内の代替施設が乏しかったこともあり、会場として認められた。秩父宮を管理する日本スポーツ振興センター(JSC)によると、64年東京五輪のサッカー以外で他競技の試合が開催されたことはない。