新型コロナウイルスの影響で中断していたJリーグが再開後、ファジアーノ岡山-ギラヴァンツ北九州のカードで、初めて観客を入れて行われた。感染対策を施した、今後のJリーグの試金石になるような重要な試合だった。

さらに金曜日の夜に唯一のJリーグの試合。41人の報道陣が訪れ、通常のJ1でもないほどの全国ニュースになった。「報道ステーション」「NEWS ZERO」など主要テレビ番組でも詳細を報じられた。広告価値とすれば億単位に相当するような露出だ。

試合前、岡山の広報部長でイベント企画担当部長の森井悠さんに話を聞くと「ものすごく緊張しています。Jリーグで最初の有観客試合となり、荷が重いほどです。我々はできることをやるだけ」と決意していた。Jリーグが、この試合をガイドライン上では「超厳戒態勢」と示したことで、当事者として表情が硬かったのは当然だろう。

だが、クラブ職員約30人が中心となり、記者が見ている限りは非常に指示系統がうまくいき、観客の入場時や退場時もスムーズ。最大で4000人の来場を想定し、最終的に2294人の動員に終わったが、岡山サポーターの拍手による応援は、敵である北九州の選手にも向けられており、スポーツ本来のよさを際立たせるムードになった。

北川真也社長は試合後に総括した。

「まずは試合がスタートでき、無事に終われてほっとしています。ウオーミングアップ時にサポーターから拍手が起きて、私は鳥肌がたった。選手はそれ以上に思っている。ありがたい環境でした。大きなトラブルがなく、来場者に楽しんでもらえたのでは。多くの方に力を借り、保健所の方にもアドバイスをもらい、運営できたことに感謝しています」

ちなみに、金曜日夜に1試合だけ、他クラブやJ1リーグ戦に先んじて有観客試合を開催したことで、冒頭にも書いたように注目度は抜群だった。ただ、それは偶然だったようだ。

「まだ観客を入れると決まる前に、うちの日程が決まっていました。本来は土曜日(11日)が試合ですが、この会場(Cスタ)が国体関連のイベントに押さえられていて、金曜日か月曜日(13日)しか空いていなかったんです」と森井さん。運も味方に付け、岡山のクラブ知名度を上げた。

試合前から会場前では、鳴り物や声を出しての応援を禁止する映像を流して注意を呼びかけた。その映像の合間には、ユニホームの胸部分のスポンサーである大手人材派遣「グロップ」(本社岡山市)の、人気俳優三浦春馬が出演するCMが何度も流れていた。

クラブは他にも、トンボ学生服やベネッセなど岡山市に本社を置く、全国的な企業とスポンサー契約を結んでいる。今年でJ2は12年目。昨季は22チーム中で9位に終わったとはいえ、クラブ史上最高に並ぶ勝ち点65を記録した。

この日は今季初黒星を喫したが、まだ1勝2分け1敗で気にすることもない。決して有名選手は多くはないが、就任2年目の有馬監督率いる岡山が、クラブ一丸となって着実に力をつけている。悲願のJ1昇格へ、台風の目になるかもしれない。【横田和幸】