スポーツには、数字だけで見られないものがある。野球では「記録に残らないエラー」がある。

例えばだ。盗塁阻止しようと、捕手が二塁へ送球。ノーバウンドの球でタイミングはアウトだったが、二塁手がこぼしたため、セーフとなった。また別のケース。左中間への飛球を左翼手、中堅手がお見合いしてしまい、その間に走者が生還したこともあった。明らかなミス…。それでも、2つは失策とはならなかった。スコアブックを見返した際に「盗塁」、「左中間への安打」と記されていても「記録に残らないエラー」がある。

反対の事象も。「記録に残らないアシスト」の存在だ。4月3日、明治安田生命J1の第7節・鹿島1-2浦和(埼玉)の試合で、それはあった。浦和FW武藤雄樹(32)の動きは、顕著だった。この試合、武藤は1トップで先発。ただ、前線に張り付くだけではなく、時に2列目の位置からチャンスを演出した。前半37分。ポジションを下げたことで、鹿島の最終ラインの注意を引き、空いたスペースを突いたMF明本が先制点を挙げた。次の得点も武藤の「記録に残らない動き」から。後半18分。下がった位置でボールを受けると、明本へスルーパスを供給。PKを誘発してみせた。

記録を見返せば、1点目はDF西のアシストから明本の得点。2点目はDF槙野のPK弾。武藤も「僕が降りたところを2列目の選手が飛び出そうという話もしていた。ボールを引き出すとか、チームにとって、重要な存在にならないといけない。たくさんゴールを決めたい気持ちもあるけど、考え方の整理ができたのが良かった」。数字に表れていない以上に、どこまでも献身的だった。

試合を見ていない人からしてみれば、武藤の“アシスト”は分からないもの。もちろん、数字や記録だけを見ても、“見られない”もの。ただ、今季初スタメンの武藤が、埼玉のピッチで輝きを放ったことは間違いなかった。浦和、鹿島。1勝同士で迎えた名門同士の対決。浦和がつかんだ今季2勝目は、武藤の「記録に残らないアシスト」が多大なる影響をもたらした。【栗田尚樹】