【モスクワ=山下健二郎】日本サッカー協会は10日、W杯南アフリカ大会(6月11日開幕)に臨む代表メンバー23選手を発表した。初のW杯メンバーに選出されたMF本田圭佑(23=CSKAモスクワ)は、発表の約5時間後にリーグ戦(対テレク)にボランチとして出場。自らの判断で前線に上がり、ゴールに迫るスルーパスを連発するなど、持ち味の攻撃性で4-1の快勝に貢献した。今年初めまでMF中村俊の控え扱いだったが、この日、岡田武史監督(53)から大きな期待をかけられるなど、世界4強に挑む日本のキーマンになった。

 W杯代表に選ばれたぐらいで浮かれていては、オレの目指すところには到達できない。朝、本田は自分が選ばれたことをクラブ経由で聞かされたが、それ以上のことには無関心だった。「選ばれたのは聞きました。喜ばしいことだと思います。他のメンバー?

 まだ知らない。14日の試合(リーグ戦)でケガをしたらW杯に行けないかもしれないし、何が起こるか分からない」。素っ気なさが、志の高さの証明だった。

 幼いころからの夢は「W杯優勝」とスペインの強豪「Rマドリード入り」。Jリーグの名古屋からオランダ、ロシアと常に高みを目指している。しかし、その強烈な個性が、岡田ジャパンになじむには時間がかかった。09年9月6日の親善試合オランダ戦では、FKを巡って中村俊と「対立」。また、攻撃偏重で守備をおろそかにしたことで、2日後には岡田監督に呼ばれ「チームコンセプトを守れないなら、もうオマエは使わない」と最後通告まで受けた。

 そこから少しずつ変わり始めた。所属チームでも守備で汗をかくようになり、日本代表では仲間とコミュニケーションを取るようになった。10年3月のバーレーン戦では中村俊と同時先発し、ゴールを決めた。あくまで中村俊の控えだった男は、急速に柱の1つに成長していった。この日、岡田監督は本田について「ものすごく大きな期待をしている。彼が成長したおかげで、得点という部分で可能性が大きくなった。得点に絡むプレーを期待してます」とまで言い切った。

 もちろん、持ち味の「超攻撃性」は失ってはいない。この日の試合で3試合連続でボランチ起用された本田は、大量得点での逆転勝ちにも怒りで肩を震わせ、顔を紅潮させた。

 本田

 監督にはトップ下でやりたい、ボランチはやりたくないと直接言った。(攻撃参加は)自分が勝手にやった。4点とっても、さらに点を取りにいかなかった。ロシアのメンタリティーなのか分からないけれど、チームには貪欲(どんよく)さがない。

 有言実行。チャンスと見れば、リスクを恐れずに上がり、効果的なパスでゴールラッシュの流れをもたらした。

 国を背負って世界舞台に立った、2年前の北京五輪では、世界との実力差を痛感した。もう、立ち止まってはいられない。「今季の前半戦はふがいなかった。そういう意味では、W杯で流れを変えられれば」。世界の壁に立ち向かい、岡田ジャパンでの主力の座を苦労して手に入れた。スケールの大きな、本物の野心を持つ男が、晴れの日にたくましくほえた。