<Jリーグアウォーズ>◇10日◇横浜アリーナ

 このMVPを原動力に変え、再び歩み出す。Jリーグは10日、横浜アリーナで年間表彰式「Jリーグ・アウォーズ」を開き、横浜MF中村俊輔(35)を00年以来のMVPに選出した。2度目の受賞はリーグ史上初で、35歳での受賞は最年長となった。優勝クラブ以外からの選出は6年ぶりで、シーズン終盤に大失速した中村にとって複雑な思いが募る受賞となった。

 新たな栄誉にも、中村の表情はさえなかった。名前を呼ばれた瞬間、一瞬笑みを浮かべたが、黄金のトロフィーを手に壇上に立つ顔は、ほとんど無表情に近かった。授賞式の後、「サッカー選手としてMVPは欲しいと言えば欲しい。でも、やっぱり優勝の方がほしい」と本音を漏らした。9年ぶりのリーグ優勝に王手をかけながら、最後の最後に連敗して広島に譲り、珍しく号泣した川崎F戦から3日。「頭の整理はできたけど、気持ちの整理はできていない」とも言った。

 J1の全18クラブの監督と、年間16試合以上出場の選手によるベストイレブンの投票で、中村には最多の213票が寄せられた。2位大久保とは19票差。これを受け、リーグの選考委員が中村をMVPに選んだ。投票の締め切りは広島の逆転優勝が決まった最終節の7日だったが、大半の選手がそれより前に投票を済ませて、横浜の優勝を信じ、快進撃を支えた中村を推薦した形だ。優勝クラブではないチームから選ばれるのは、07年のポンテ(浦和)以来、6年ぶり8度目。中村が前回受賞した00年も、年間優勝は鹿島だった。

 心の底からは喜べない受賞。それでも、中村は投票の事情を理解しながら、「MVPはいろんなことがかみ合っていただける賞。多少の自信はつく。自分の中に悔しいという気持ちがある限りは、まだまだ伸びる余地はある」と必死に前を向いた。35歳での受賞ということにも「いつか指導者になった時、この年齢でもこうやれば活躍できるということは若手に教えられる」と明るい表情を作った。

 開幕直後は右足首痛に苦しみ、11月には胆のう炎とも戦いながら、自身初の2ケタ10得点の成績を残した。「もっと上に行けるというイメージが、この賞でできた」。落胆の中で手にした“つらい勲章”は、ベテランとして再び絶頂期を迎えた中村にしか味わえない。これを力に、新たな俊輔の姿を見せる。【由本裕貴】

 ◆過去のV逸MVP

 今回の中村は、07年の浦和MFポンテ以来、6年ぶり8度目。2位チームからは6度目。03年には年間6位の浦和からFWエメルソンが選出されたこともあった。得点王でもなければ、年間優勝に貢献したわけでもなかったエメルソンの受賞については異論も出た。当時の鈴木チェアマンは選考方法の見直しも言及したが、受賞を後押ししたのは、ピッチ上ですごさを肌で感じた選手たちであり、その怖さを実感した監督たちだった。