<J1:仙台2-1川崎F>◇第7節◇23日◇等々力

 東日本大震災で中断していたJリーグが23日、再開し、被災地チームの仙台が川崎Fに劇的な逆転勝利を果たした。仙台のアウェーでの逆転勝ちは49試合目にしてクラブ史上初。前半37分に先制を許すも後半28分、MF太田吉彰(27)が足をつりながら右足で同点ゴール。同42分にはFKからDF鎌田次郎(25)が鮮やかなヘッドで逆転した。先月11日の未曽有の大震災後、満足に練習ができない状況が続く中、被災地のボランティアも続けた選手たちが、最高の結果を東北に届けた。

 大震災を経験し、被災地を実際に見てきた仙台イレブンの底力は計り知れなかった。勝利の瞬間、手倉森監督は人目をはばからず泣いた。「東北の地図が頭に浮かんだ。沿岸部に大津波警報の赤いラインが出続けていた震災当日の地図が。避難所の方々も思い浮かんで、涙が出た」。アウェー川崎F戦はJ2での対戦も含め、過去1分け6敗。さらにJ1でのアウェーでの逆転勝利は49戦目にしてクラブ史上初めて。苦境に耐え忍んできた選手に、東北の思いが乗り移った。

 前半37分に川崎Fに先制点を許す。昨季5位の格上チームだが、誰1人諦めなかった。ハーフタイムの円陣で副主将のMF関口が「勝って仙台に帰ろう」。言葉通りに試合は進んだ。後半17分、FW中島を入れ「4-2-3-1」から普段通りの「4-4-2」に変更。2トップにボールが収まり、攻撃の幅が生まれた。同28分、ペナルティーエリア中央でFW赤嶺が混戦を制し、つぶされながら右にいた太田にパス。右足がつりながらもゴール右に押し込んだ。

 執念の同点弾。右足が痛くて動けない太田は、座ったまま両拳を握りしめた。「動けなくなるまでやってやると思っていた。そこで同点ゴール、うれしかった。本当に動けなくなったのは恥ずかしいですけど」と幸せそうに笑った。

 「一人じゃない

 信じよう

 希望の光を!

 共に歩み

 未来に向かって」と被災地へのメッセージを刺しゅうしたスパイクで挑んだ関口。実は当初「忘れない

 3・11」と、入れるはずだった。しかし津波で街が消し飛んだ風景を目の当たりにし「忘れたい人もたくさんいる」と、やめた。東北への思いが詰まったスパイクは90分間、関口の足を支え続けた。

 そして奇跡の瞬間が来た。同42分、中島が右サイド深くで得たFKを、MF梁が絶妙なクロス。DF鎌田のヘッドはゴール右に吸い込まれた。「ポストに当たって内側に入ったのはチーム、サポーターの力が乗り移ったから」と興奮気味だった。

 3月11日、震災が発生し選手たちも、できることを必死で考えた。同28日にチームが再始動するまで仙台を離れなかったFW柳沢主将。新聞、テレビで報じられる惨状に、自分に何かできないかと問い続けた。津波の被害が甚大だった仙台市若林区役所へ行き、ボランティア登録をした。柳沢とともに登録したGK桜井は、ガソリンがない中「いても立ってもいられなかった」と同市泉区から自転車で若林区を目指した。車でも40分はかかる距離。なりふり構わず、被災地を駆け回った。

 チーム全体が、ひとときも被災地のことを忘れず戦ってきた43日間。その思いで勝ち取った勝利だった。【三須一紀】