<J1:東京3-2鳥栖>◇第12節◇20日◇味スタ

 日本代表候補より目立ったのは、泥くさいストライカーだった。途中出場の東京FW渡辺千真(25)が13分間でハットトリックを決め、大逆転勝利の立役者となった。リードされていた後半9分に投入されると、同30分に右足で追撃弾。さらに6分後には同点弾を押し込むと、試合終了間際の同43分にゴール前の混戦からボールが鼻に当たる決勝弾。0-2からの大逆転劇でリーグ3連勝を決めた。日本代表アルベルト・ザッケローニ監督(59)が視察する中、独特の決定力を見せつけた。

 決めた渡辺が気が付いていない。同点の後半43分。MF石川のフリーキックがゴール前に浮き上がると、MF長谷川がヘッドではじいたボールが渡辺の鼻に当たる。角度が変わりゴールネットへ吸い込まれると、自分を指さして「オレ?」と聞きながら走りだす。13分間でのハットトリックで2点差をはね返す逆転勝利。リーグでは自身初の3得点に「カズMAX」のポーズで喜びを爆発させた。

 途中出場でのハットも初めてだった。「自分でもビックリ。1年目(09年)の天皇杯以来」と目を見開く。同点弾となった2点目も「どこに当たったか分からない」と腹部付近で押し込んだもの。「これまではきれいなシュートの方が多かった。こういうのを増やせていければ、もっと点を取れると思う」と、点取り屋の新境地が開けた瞬間でもあった。

 前日調整(19日)に伏線があった。セットプレーの練習ではサブ組。これまでもACLでは先発し続けていたが、リーグ戦は12戦で先発は1回。それでも出番に備え、全体練習後にシュート練習を行った。ポポビッチ監督は疲労などを考慮し、自主練習を強制的に撤収させることが多い。だが「オレだけは言われなかった」と1人、ゴールの嗅覚を磨き続けた。指揮官の“止めない魔術”で渡辺が泥くさく花開いていた。

 日本代表ザッケローニ監督の目の前でもあった。23日の国際親善試合、アゼルバイジャン戦(エコパ)の代表メンバーがチームに4人いる中での視察だったが、渡辺は「もちろん(代表を)目指しているけど、今日だけでなく試合に出続けないと。誰にでもチャンスはあると思う」と浮かれることはない。

 韓国の女性4人組ヒップホップグループ「2NE1(トゥエニィワン)」がお気に入りの25歳が近い将来、日本の決定力を変えるかもしれない。【今井貴久】

 ▼東京FW渡辺が、20日の鳥栖戦で今季J1初のハットトリックを達成。自身J1初、J1通算186度目。東京ではMF石川が09年5月2日の大宮戦で記録して以来、3年ぶり5人、7度目。渡辺は後半9分から途中出場して3得点をマークしたが、途中出場でのハットトリックはJ1通算10人、11度目で東京では初。