<J1:東京4-4浦和>◇第21節◇23日◇味スタ

 慶応ワンダーボーイの誕生だ!

 アギーレジャパンの候補にリストアップされている東京FW武藤嘉紀(22)が、日本代表ハビエル・アギーレ監督(55)が見守る前で2得点を決め、強烈にアピールした。慶大に通う現役大学生でプロ1年目ながら、御前試合で能力をいかんなく発揮。首位浦和と痛み分けとなったが、持ち味である運動量とスピードに加えて、決定力も見せつけた。

 絶妙のタイミングで武藤が抜け出した。浦和DF2人の間をFW平山のスルーパスに合わせて反応。オフサイドはない。左サイドから1人ドリブルで持ち込むと、右足で狙ったのがGKの股の下だから規格外。一時勝ち越しとなるゴールで会場の度肝を抜いたのは、前半15分だった。

 まだ22歳。慶大に通う現役大学生だ。首位をホームに迎え、真っ赤な浦和スタンドが醸し出す異様な雰囲気。そしてスタンドには日本代表アギーレ監督が見守る中、プレッシャーをモノともしなかった。

 「いろいろあってすごい緊張した。けど、プレスに行ってボールを取れたとき『いけるな』と思えた」

 のまれかけた空気を引き戻した。前半6分に6試合ぶりの失点。出足の重いチームの中で、前半9分に相手DFに猛然と襲いかかりボールを奪取。そこで得たCKから高橋の同点弾が生まれ、勢いをつけた。

 「1対1になれば自分に分がある。1人で打開しないといけない場面もある。海外の選手は落ち着いて決めているから」

 2連続失点で同点とされた後半19分、言葉通りに個人の力で打開した。FW河野から横パスを受けると、立ちはだかる浦和DF槙野をかわし、この日2度目の勝ち越し弾。今季7得点でクラブ新人記録を更新したが、4年前は想像できなかった。

 東京ユースだった高校3年時、トップ昇格の打診を受けたが自信を持てず辞退。「練習参加をしても自分が遠慮していた。これではダメだと思って、大学を選んだ」。遠回りをしたが、大学卒業を待たずに1年早くブレークの予感。だが武藤が射止めたのはそれだけではないかもしれない。

 アギーレジャパンのリストに武藤の名前は入っている。初の御前試合だった20日の天皇杯松本戦は、左太もも打撲のため欠場。チャンスを逃したはずが、異例の中2日で同一クラブの視察となった。代表指揮官のお目当ては武藤と思われる中「誰が見ているとか関係なく動いて決められた。そのプレーをアギーレさんが見てればいい」。28日のメンバー発表前最後の公式戦。これ以上ない結果を残して、運命の日を迎える。【栗田成芳】

 ◆武藤嘉紀(むとう・よしのり)1992年(平4)7月15日、東京・世田谷区生まれ。中学からFC東京U-15深川でプレー。慶応高卒業時にトップ昇格の選択肢がある中で慶大進学。14年からサッカー部を退部してプロ契約。J1出場21試合7得点。178センチ、72キロ。血液型A。