ドイツが勝った。負ければ1次リーグ敗退が決まるスウェーデン戦、後半49分39秒にクロースがゴールを決めて2-1。劇的な逆転弾で、前回王者が精神面の強さを見せつけた。

 「ゲルマン魂」。ドイツの強さを表す言葉は、W杯の歴史とともにある。54年スイス大会の奇跡の初優勝に始まり、クライフを、マラドーナを、メッシを決勝の舞台で葬ってきた。強靱(きょうじん)なフィジカルとメンタルで相手をねじ伏せる姿にピッタリな言葉だと思う。しかし、実はドイツ語に「ゲルマン魂」に相当する言葉はない。

決勝ゴールを決めたクロース(左から2人目)はチームメートに祝福される(AP)
決勝ゴールを決めたクロース(左から2人目)はチームメートに祝福される(AP)

 発信元は日本かも。64年東京五輪前、ドイツ人のクラマーコーチが「君たちには大和魂があるはず」と言った。この時、同じようなドイツ人の精神を「ゲルマン魂」としたのが始まり。最初に使ったのはクラマー氏か通訳をした岡野俊一郎氏か。ともに故人となり、明確な起源は分からない。

 広まったのは当時唯一のサッカー番組だった「ダイヤモンドサッカー」で解説の岡野氏が使ったから。70年メキシコ大会で脱臼した腕をつりながらプレーを続けたベッケンバウアーの姿とともに「ゲルマン魂」はドイツの強さを示す言葉として伝わってきた。

 直接意味するドイツ語はないが、そのメンタルはドイツ人の根底にある。「最後まであきらめずに全力を尽くす」「途中で試合を投げない」は、彼らの常識的な姿勢だ。一方的になった試合でも、最後まで気持ちを切らすことはない。中野吉之伴ドイツ通信員は「サッカーに限らず、ドイツ人の気質として当たり前のこと。だから、言葉がないのかもしれない」という。

 80年代にブンデスリーガで活躍した日本人プロ1号の奥寺康彦氏(J2横浜FC会長)は「与えられた役割を90分間、きちんとこなす。それがドイツ人」と話す。1人の例外もなく、全員が愚直なまでに最後まで役割を全うする。それが、奇跡の逆転を生む。それが「ゲルマン魂」になる。

試合中に言葉を交わすドルトムント香川真司(左)とフランクフルト長谷部誠(撮影・PIKO)
試合中に言葉を交わすドルトムント香川真司(左)とフランクフルト長谷部誠(撮影・PIKO)

 今大会、日本代表のうち最多の7人がドイツのクラブに所属する。「日本人も与えられた役割をきちんとこなせる。メンタルが似ているから、ドイツで成功できる」と奥寺氏。日本人は「大和魂」として「ゲルマン魂」と同じメンタリティを持っている。どんな状況になっても日本代表を応援できるのは「最後まであきらめない」日本選手の精神を信じているからだ。