【カザン(ロシア)17日】サッカー日本代表MF香川真司(29=ドルトムント)が、新キングになる。先発濃厚な明日19日のワールドカップ(W杯)1次リーグ初戦コロンビア戦を前に、J2横浜FC三浦知良(カズ=51)からエールが届いた。5月に3度も邸宅へ招かれ「主導権を持て」「中心になれ」と帝王学を注入された。結果、12日パラグアイ戦で3得点に絡みスタメン返り咲き。キング魂を胸に2度目のW杯で輝く。チームは非公開で調整した。

 ロシア入り後、最も晴れ渡った空の下で香川は満面の笑みだった。冒頭15分が公開された練習では本田と確認しながらステップを踏み、酒井宏とは2人1組で体幹を刺激した。3日目となった非公開調整では先発組のトップ下に入り、コロンビア戦へ息を合わせた。

 いよいよW杯初戦を迎える。無得点、未勝利に終わった初出場のブラジル大会から4年。リベンジを期す前に、香川はキング邸に招かれていた。「会っています。実は3回」と明かしたのはカズ。国内合宿が始まる直前の先月19、20日の2日連続と、代表発表後の31日。3度も招待した理由を「お互いに引き寄せ合って」と、運命かのように笑顔で説明したカズは「当然、僕とはレベルも実績も違う選手ですから」と謙遜した上でアドバイスしていた。

 カズ 真司がプロになって10年超。彼のキャリアすべてを僕は理解しているつもり。その中で技術的な話は一切せず、精神的な話だけさせてもらった。「真司が代表の中心になって、ピッチ内外で主導権を握ってほしい」「真司中心に攻撃を動かしてほしい」と伝えさせてもらいました。やさしい彼がエゴを出すことでプラスになれば。気持ちを前面に出してほしい、と。

 金言ならぬ“キング言”を授かった香川は「1つのゴール、1つの勝利で変えられる」と決意を返して渡欧。合宿序盤は控え組だったが、12日パラグアイ戦で1得点1アシストに1起点と輝いて1番手に返り咲いた。カズの目には「周りが見えていたし、乾とのコンビも、あうんの呼吸。(攻撃の)発信が全部、真司からだった」と頼もしく映った。試合後に連絡すると「勝ててゴールもできましたが、本番は別。あくまでもW杯で結果を出さないと。準備します」と返ってきたという。心配無用だった。

 香川は小学生の時、阪神・淡路大震災の復興支援サッカー教室でカズにサインをもらって憧れ、08年のJ2戦でユニホームをもらってから本格的に交流が始まった。10年後も、W杯直前に3度も自宅に呼ばれるほど、かわいがられている。カザンの練習場。「ピッチ内外で主導権を握っていくつもりか」と聞かれた香川は「もちろん」と即答。「ここからが大事。初戦に集中したい」は、カズへの所信表明と同じ覚悟だった。

 カズもパラグアイ戦後に「おめでとうは言わない。W杯で言わせてくれ」とLINEし、現地観戦するコロンビア戦まで我慢した。その祝福は、キング魂を受け継いだ香川が“御前”で攻撃の全権を掌握した時、現実となる。さあ初戦。新キング香川が日本国民に歓喜をもたらす。【木下淳】