ブラジルFWネイマール(26)も試練を味わった。スイスから執拗(しつよう)にマークされ、本来の力を発揮できずに無得点。悪質なファウルも受けたが、今回から導入されたビデオ判定(ビデオ・アシスタント・レフェリー=VAR)は“味方”にはなってくれなかった。チームも1-1の引き分けで、78年大会以来10大会ぶりに白星発進を逃した。ブラジルだけでなく前回覇者のドイツ、メッシのアルゼンチンなど優勝候補が相次いで苦しむ、波乱続きの序盤戦となっている。

 髪は金色、サイドから襟足をVの字形に刈り上げた新ヘアスタイルで登場したネイマールだったが、時間の経過とともに顔をゆがめる回数が増えた。ベーラミやシャカらに中盤でプレッシャーをかけられ、ボールを失う場面が目立った。後半12分にはDF2人と交錯し、2月に痛めた右足を引きずるように歩いた。同22分にはベーラミに倒され、また足首に手をやって痛がった。

 この日の被ファウル数は10回。チーム全体の19回の半数以上だ。データの残る近年の大会では、98年大会でイングランドFWシアラーが受けた11回に次ぐ数字だという説もある。激しいタックルに笛が鳴らない時もあった。「主審が注意して見ていないのなら、サッカーにとってよくないこと」。試合後も足をひきずりながらこぼした。

 前回14年の準々決勝コロンビア戦で背後から蹴られて腰椎骨折、離脱した。大黒柱を失ったチームは準決勝でドイツに1-7と大敗。そんな背景があるから、悪質な反則で夢を壊されたくない思いは人一倍だ。

 ネイマールだけではなかった。スイスの得点場面ではミランダを押してフリーになったツーベルが頭で決めた。後半29分にはガブリエルジェズスがペナルティーエリア内で倒された。主審だけでなく、誤審を防ぐために導入されたVARも反応しなかった。

 チチ監督は失点場面は「明らかなファウル」と指摘した。だが、試合後にミランダが「反則と分かるように倒れればよかった」と言うと「それは駄目だ。わざと倒れてはいけない」と諭したという。

 サッカー王国の宿命だろう。すべてのチームが、がむしゃらに向かってくる。反則覚悟で止めにくる。それに冷静に対応しないと、自滅もあり得る。「W杯に簡単な戦いはないと、分かった試合」とネイマールも受け入れるしかない。戦いは始まったばかりだ。