現在サッカー界で最高の審判の1人が、大英帝国勲章も叙勲しているイングランドのハワード・ウェブ氏(42)だという意見に異論を唱える人は少ないだろう。日本のファンの中には名前を知らない人もいるかもしれないが、ラグビー選手のようにがっちりとした体格で、頭をそり上げた屈強そうなウェブ氏の姿を、1度や2度はテレビで見たことがあるに違いない。

 プレミアリーグや欧州チャンピオンズリーグ(CL)の重要な試合でも常に安定したジャッジで選手をコントロール。10年には欧州CL決勝「インテルミラノ-Bミュンヘン戦」、W杯南ア大会決勝「スペイン-オランダ戦」で笛を吹き、同じ年に両大会決勝を裁いた最初の主審となった。

 そのウェブ氏がW杯ブラジル大会へ向け、英シェフィールド・ハラム大学の施設で黙々とトレーニングに励んでいる。BBC(電子版)が28日にその様子を伝えた。ウェブ氏は「暑さと湿気がブラジルでの最大の敵」という。そのため、ブラジルから6000マイル(約9656キロ)離れた大学の研究室を本番同様に設定。室温40度、湿気80%の中で、ランニングマシンに乗って走り続ける。

 うだるような暑さと湿気が体中にまとわりつき、すべての毛穴から汗が噴き出す。「つらいよ、本当につらい」というウェブ氏は、150メートル走×20本のトレーニングの後、立っていられなくなるほどの疲労に襲われるという。

 国際サッカー連盟(FIFA)からは、どういう準備をしろという指示はない。それでもウェブ氏は「正しいジャッジをするには、正しい場所から見なければならない。だから普段より過酷な条件でも心身共に万全でなければならないんだ。特訓によって少しのアドバンテージでもあるのなら、やらない手はないだろ」と、このトレーニングを2週間も続けている。

 通常、成人男性は1日に1500キロカロリーを消費するといわれる。ウェブ氏の場合、1試合裁いただけで2200キロカロリーを消費する。さらに計算によると、ブラジルではその値が3000キロカロリー以上にもなるという。それだけ過酷な空間でも、C・ロナルドらの超高速カウンター攻撃についていかなければならない。そのための準備に手抜きは出来ない。

 「どのW杯も特別だ。でもサッカー大国ブラジルでやるW杯は本当にスペシャルなんだ」というウェブ氏。すでに昨年のコンフェデ杯でも笛を吹いており、現地の様子は分かっている。それでもプロの審判として最善の準備をして臨む。W杯では選手だけでなく、審判の技術にも注目していきたい。