なぜ日本はW杯で惨敗したのか- 

 いつまでも引きずっていて申し訳ない気もするが、「日本はどのようにW杯へ臨めば良かったのか」を考える上で参考になりそうなのが、著書「ダビデとゴリアテ」で圧倒的な強者に挑むUnderdog(弱者)について記した作家・ジャーナリスト、マルコム・グラッドウェル氏(50)の言葉だ。

 同氏は昨年、「ダビデとゴリアテ」出版にともない、米CBSの人気番組「60ミニッツ」にも出演。そこで興味深い発言をしていたので紹介したい。

 聖書を通じて広まったダビデとゴリアテの戦いでは、投石器しか持たない若い羊飼いダビデが、大柄で屈強な戦士ゴリアテの額に石を命中させて倒してしまう。この戦いは今でもジャイアントキリング(番狂わせ)の代名詞として用いられている。

 グラッドウェル氏は、そもそもスポーツの試合などにおいて本命とされる側は過大評価されており、不利だとされている側は過小評価されているという。そしてジャイアントキリングは我々が考えているよりはるかに頻繁に起きるものだと強調する。

 その理由として「自らがUnderdogならば、何か普段はトライしないようなことを試みるようになる。戦いにおいてよりクリエーティブになれる」と説明する。そして独創的な戦い方の例として、インド出身のソフトウエア企業CEOビベク・ラナディブ氏が、12歳になる娘のバスケットボールチームで用いた戦術を例に挙げた。

 ラナディブ氏がコーチをすることになったチームは「背が高くない」「ドリブルできない」「シュートはうまくない」という悲惨なチーム。しかもラナディブ氏自身にはバスケ経験がまったくなかった。

 そこで同氏はコンピューターを使ってデータを解析。試合開始から終了まで徹底的に相手の周りを走り回り、ターンオーバー(ボールを奪うこと)数を増やすことだけに特化したチームを作り上げたという。ひとたびボールを奪えば、シュートは1番簡単なゴール下のレイアップのみに徹底。それにより連戦連敗のチームが、州選手権に勝利するほどに成長した。

 「自分たちのサッカーを」とW杯へ臨んだ日本代表は、世界との実際の力関係をきちんと把握せず、自らがUnderdogだという意識に欠けていた。そのため「どんな手を使っても強豪にひと泡吹かせてやる」というクリエーティブさが生まれにくくなってしまった。

 ダビデはゴリアテと正面からぶつかっても勝てないと考え、組み合わずに遠くからの投石によって勝利した。日本代表がUnderdogだと自覚してW杯に臨み、ダビデの飛び道具のようなアイデアを持っていたら…。グラッドウェル氏の言葉に触れるたび、そんなことを考えさせられている。