先週水曜、ドルトムントのクロップ監督が今季限りで同職を辞任することが突然発表された。ドイツだけでなく、欧州、また日本でも驚きを持って伝えられたこのニュースだったが、現地の記者会見場ではちょっとした事件も起きていた。

 会見の様子はクラブ公式HPで生中継され、まず初めにバツケ社長が今にも泣きだしそうな表情で挨拶。その後、クロップ監督とツォルクSDのコメントが終わると、次は記者からの質問タイムとなった。それが10分強続き、そして進行を担当していたフリッゲ広報部長が「最後の質問です」と、会見をお開きにしようとした時だった。

 最後の質問者として挙手をしたのは、最前列左側に座るクラウス・ティルマンと名乗る人物。専門誌『ハントベルクス・ブラット』の記者で、編集部のあるデュッセルドルフから来たというその男性は「こないだ、ホテルの前で会いましたよね?」と唐突に質問。クロップ監督が頭の上に?を浮かべていると、続けざまに「お願いがある。私の息子に試合のチケットを1枚くれると約束してくれ。今日はそれを言いたかったんだ」と発言した。

 会見場の全員が呆気にとられていると、同監督は笑みを浮かべながら「この会見の最後の質問がそれではいけないので、もう1つ答えよう」と場の空気を和ませると同時に、「(チケットを)約束しよう」とティルマンの無茶な要求も快諾。こうして悲しみと、わずかな笑いに包まれた会見は終わりを迎えた。

だが、心中穏やかでなかったのは、媒体名を出された専門誌『ハントベルクス・ブラット』だ。公私混同のティルマン氏について同誌のゴットシャルク編集長は公式HP内で声明を発表している。

「あの男性は過去に『ヨーロッパ』をテーマにして1度だけ我々に寄稿してくれたことがあります。しかし彼はデュッセルドルフにあるこの編集部の人間ではありませんし、我々の許可なしに『ハントベルクス・ブラット』の名前を使いました。そもそも我々は、スポーツ関係のイベントに記者を送ることは基本的にありません」

 それもそのはず。『ハントベルクス・ブラット』とは、手工業者や職人のための経済誌であり、クロップ監督の辞任とは全く関係がない。

 1枚の観戦チケットと引き換えに、要注意人物としてその名を広めてしまったティルマン氏。果たして彼は今後、この代償をどのように支払っていくことになるのだろうか。