オランダ2部ドルトレヒトのU-23(23歳以下)日本代表DFファンウェルメスケルケン際(さい=21)が1日、今季の全日程を終えて帰国した。13年夏にテスト生として渡欧し、初めてプロ契約で迎えた15-16シーズンは31試合に出場。オランダ人の父と日本人の母親を持つサイドバック(SB)は本紙の単独取材に応じ、異国で定位置をつかみ、人生初の代表入りも果たした飛躍の1年を振り返るとともに、8月のリオデジャネイロ五輪に向けた野望も語った。

 長旅を終えた顔に、充実感が宿っていた。父の母国の首都アムステルダムから13時間。成田空港に着いたファンウェルメスケルケンは、今年最高26度を超えた日差しに「1年ぶりの日本は…暖かい。オランダは数日前、気温1ケタ台だったので」と白い歯を見せた。

 笑顔が納得のシーズンを物語る。4月29日の今季最終戦。本職のSBより位置が高い右ウイングで先発、途中から左ウイングに移ってフル出場したドルトレヒトが、オランダ2部優勝のスパルタに3-2で競り勝った。「ドンピシャのクロスを何度か上げたんですけど、ことごとく味方が外してくれて(笑い)」と記録はつかなかったが「王者相手に内容は良かった」。19チーム中14位に沈んだが、1年前まで無給のアマチュア選手だった男が36試合中31試合に出場(先発24試合)。1得点1アシストで躍進の今季を締めくくった。

 「数字だけ見れば物足りないかもしれないけど、濃く、大きな経験ができた。監督が第2節で解任されたり(人材難で)GK、センターバック、1トップ以外全ポジションを任されたり。このレベル(2部)だから、あり得た。貴重な経験でした」

 五輪に出場するU-23代表では右SB。関係者によると、5月のガーナA代表戦(ベアスタ)とトゥーロン国際(フランス)への招集が濃厚で、先発で代表デビューした3月のポルトガル遠征メキシコ戦の借りを返したいところ。2-1の金星に貢献はできたが、1対1で抜かれる場面が目立ち「課題という宝箱が見つかった」と悔しがっていた。

 「同じSBでも、代表では攻撃的な部分が求められる。ドルトレヒトは、まず守備という考え。すべて正反対と言っていいほどの違いがあった。でも整理できないと生き残れない。また代表に呼んでくれるなら成長スピードを見せたい」

 今年のオフは休む気がない。「今日から18人の五輪メンバーに入ることだけに集中したい」。現地で受講する通信制の大学を「試験などでサッカーに支障が出る」と休学。その上でクラブのステップアップ移籍という野望も持っている。

 「3月に久保君(ヤングボーイズ)や南野君(ザルツブルク)と話したけど、高いレベルを目指すのは当然。すべては自分次第」

 ロンドン五輪では、DF吉田が同じオランダのVVVからイングランドのサウサンプトンへの移籍を勝ち取った。「五輪は人生をガラッと変えてくれるはず。そのメンバーに入れるよう死に物狂いで頑張っていきたい」。1年ぶりの日本だが、ぎっしり自主トレの予定を詰め込んでいる。【木下淳】

<ファンウェルメスケルケン際(さい)アラカルト>

 ◆生まれ 1994年6月28日、オランダ・マーストリヒト。オランダ人の父と日本人の母の間に生まれる。2歳で帰国して山梨県北杜市で育った。

 ◆文武両道 中高一貫の進学校、甲陵中高に進む。国立大を狙える成績を残した一方、08年から13年までJ1甲府のU-15、U-18に所属。片道1時間以上かけて練習場に通っていた。

 ◆実家は工房 ジュエリーデザイナーの父、服飾デザイナーの母が山梨の清里高原に洋品、ジュエリーや雑貨などの工房を構える。

 ◆成績 オランダ1部通算1試合無得点。2部では15年11月27日PSV2戦でプロ初ゴール。U-23代表は3月25日の同メキシコ戦でデビュー。

 ◆大学生 欧州サッカー連盟(UEFA)が提携するデンマークの通信制大学で、スポーツマネジメントの経営学、経済学を学ぶ。

 ◆サイズ、利き足 178センチ、72キロ。右足。