レスター市内のインド料理店。オフのレスターFW岡崎慎司(30)は、ここで激辛のカレーを食べる。噴き出す顔の汗をぬぐえば、一瞬で爽快な気分になれる。今年も6、7回は通っているという、お気に入りのレストランは、実は10年から1年半、当時はイングランド2部だったレスターに所属していた浦和MF阿部が発掘した店だった。

 レスターはさほど大きな街ではない。レストランの店員も、何度か通ううちに、阿部を覚えてくれた。同じマネジメント事務所に所属する岡崎には、電話などでお気に入りの店舗を伝えた。インド料理店は、まさに阿部が“三つ星”をつけたレストランだった。

 他にも、中華料理店、イタリアンレストランなど、阿部が引き継いだ店は多い。レスターに引っ越した当初から、岡崎がどこに行っても店員からは「ユウキは元気にしているの?」と気さくに声をかけられた。

 阿部は以前「もしかしたら初めての土地じゃないように感じてくれているかも。オレは勝手にそう思ってるんです」と冗談めかして言っていた。当時と選手は入れ替わったが、今も在籍するコーチ陣などはみな、阿部を懐かしがる。ユニホームを洗濯する女性たちも、みな阿部のファンだ。

 岡崎が住む家も、かつて阿部がレスター市内をランニングする際に、特に気に入って周回していたあたりにある。落ち着いた雰囲気で、住みやすそうな場所だという情報は、家探しの参考になった。

 チームが2部だった当時と違い、銀行での手続きまでクラブハウスで済ませられるほど、待遇は良くなった。しかし、異国の環境に順応できるかは、また別な話だ。阿部の残した足跡は、岡崎が加入1年目にして活躍する上で、大事な道しるべになったはずだ。

 優勝の報にも阿部は「あと2試合しっかり戦って、いい終わり方をしてほしい。オカが点を取ってくれれば、日本も盛り上がりますし」とさらなる期待を込めた。どこまでも実直な男。残した足跡も、真っすぐで力強かった。【塩畑大輔】