プレーバック日刊スポーツ! 過去の2月28日付紙面を振り返ります。1999年の32面(東京版)は動ける32歳のカズ、誕生日ノーゴールも敵将絶賛と報じています。

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 【ザグレブ(クロアチア)27日】クロアチア・ザグレブのカズ(三浦知良=32)のバースデーゴールはならなかった。

 デビュー3戦目で初のアウエーとなる5位バルテクス戦で2点リードされた後半から出場。前線でポスト役、中盤ではゲームメーク役と活躍したが、シュートは2本でノーゴールに終わった。C・ザグレブは0-2で敗れ、明日28日に2位リエカが勝てば、今季初めて2位に転落する非常事態に陥った。

 カズだけは輝いていた。攻め切れない。決められない。首位とは、もはや名ばかりのC・ザグレブの選手の中で、カズ1人だけが、冷静にゴールを目指した。日本人記者のひいき目では決してない。カズが登場した後半は、一方的なC・ザグレブのペースになった。それでも、ついにゴールを奪えず「ひどかったねえ。さすがに今日はイライラしたよ」と嘆いた。しかし、ゴール以外の部分で、カズは見る者すべてを納得させた。

 試合は悲惨だった。ケガと出場停止で前節と5人も先発が変わった。腰痛から6カ月ぶりに復帰した司令塔プロシネツキは全く動けずに、すぐにDFの最後尾に取り残された。ポッカリあいた中盤のスペースを、バルテクスにいいように突破された。負傷明けでいきなりリベロに起用されたルカビナは、本来は攻撃的なウイングの選手。押し込まれるたびに真っすぐ後退し、傷口を広げた。

 後半開始から投入されたカズに、ザイエック監督から事前の指示はなかった。ハーフタイムでのアップを終えて戻ったロッカールームのボードには「3-4-3」とシステムの変更だけが書いてあった。「左に行け」とひと言だけ伝えられ、慌てて飛び出した。すべて、自分で判断するしかなかった。「中盤があきすぎているのに、FW3人が前で張っていても意味がない」と後ろに下がったプロシネツキに代わって、司令塔の仕事もこなした。長身のミクレナスにボールが集まるたびに、全速力で逆サイドや、DFの裏に走り込んだ。しかし最後のパスが飛んでこなかった。

 後半29分に、やっとプロシネツキからのスルーパスが出た。角度のない位置から左足で思い切り蹴ったボールは、ゴール右ポストをかすめていった。「あれはいいシュートだった。でも、ほかにも何回もフリーになっていたのにね。ミクレナスには、ポストになってほしいのに……」。終わってみれば悔しさだけが増大した。

 C・ザグレブの勝ち点は44のまま。わずか1点差で追う2位のリエカが、今日28日のザダルコメルツ戦に勝てば、首位から陥落する。次戦の3月7日には、そのリエカとの直接対決が待っている。首位攻防戦と松原や財前との日本人対決も予想される。「そうだね。次、次はいきますよ!」。うっ積した思いを晴らすには、今度こそゴールを決めるしかない。

◆DFライン崩壊 バルテクスが立ち上がりから、速いパス回しと積極的な縦への突進で、優位に試合を展開。前半24分、左サイドのFKから素早いリスタートでボールをつなぎ、ムジェックがシュート気味の強烈なクロスをGKがはじいたところを、詰めていたポサベツが豪快に蹴り込んだ。同42分にも、中盤でボールを自由にもたれて攻め込まれ、最後はカリッチに追加点を奪われた。カズは、何度も攻撃の起点となったが、守りに入ったバルテクスのゴールは堅かった。

★C・ザグレブ・ザイエック監督(43) 勝利に対する執念の差で負けてしまった。今日のミウラのプレーには、とても満足している。ゴールにならなかったのは、運がなかっただけだ。

★バルテクス・ベセック監督(36) ミウラはとても危険な選手だった。テクニックだけではなく、創造力もある。彼を止めようとマークをつけさせてから、リズムが崩れて防戦一方になってしまった。

◆地元紙も評価

 27日付のクロアチア各紙は、惨敗のチームの中でカズの働きを高く評価した。激辛の採点が売り物のベチェルニリスト紙は「ミウラの登場が唯一の救いだった」と5点満点でC・ザグレブ最高の2・0をつけた。ユタルニリスト紙もチームで2番目の6・0。

◆カズの誕生日マッチ これまでの2回は明暗がくっきり分かれている。1994年(平6=27歳)には、SANWA BANK杯で、ヒムナシア(アルゼンチン)と国立競技場で対戦。右CKを直接決めるなど活躍。試合も2-2からPK戦に入り4-2で勝った。翌95年(28歳)には、セリエAジェノアのFWとして、ナポリ戦に登場し、リーグ戦3試合連続5回目のフル出場。前半30分にゴールに蹴り込むがオフサイド判定に泣いた。試合も0-1で惜敗した。

※記録と表記は当時のもの