W杯ロシア大会日本代表のDF植田直通(23)が、移籍するベルギー1部セルクル・ブリュージュに向けて出発した15日。別の選手も移籍のため、同じ時間、同じ成田空港に姿を見せていた。サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」のMF猶本光(24)。なでしこリーグの浦和からドイツ1部フライブルクに向かうため、日本を離れた。

 移籍を発表したのは6月。そのとき、決断までの経緯は876文字の長文でつづられ、クラブを通じてウェブサイトに掲載された。

 地元福岡で小学1年のときに兄の影響で始めたサッカー。福岡J・アンクラスから移籍した浦和では、16年に卒業した筑波大にも通いつつ、6年半を過ごした。「地元福岡から出て、初めての1人暮らし、初めての移籍、初めての大学生活など、新しい環境に慣れることは大変でした」と懐かしがった。

 猶本の名前と顔を知らしめたのは、12年に日本で開かれたU-20女子W杯だった。「ヤングなでしこ」の一員として戦い、3位に入った。ただ、準決勝で敗れたドイツと対戦した際は、今まで体験したことがなかったパワーとスピードに驚いたという。「世界とのレベルの差に衝撃を受けました」と振り返る。

 猶本にとってU-20女子W杯は、足りない実力を思い知らされた大会だった。だが、世間の反応は違う。そのビジュアルも相まって、どんどん脚光を浴びていく。7月8日に行われた日テレ・ベレーザとの試合後の移籍セレモニーでは、こう振り返った。「U-20のW杯で私を知って、そこから応援してくださっている方も多いと思いますが、当時はあまり実力もないのに取り上げられたりして『もうやめてくれ』と思っていたこともありました」。

 その「差」に悩まされた6年半でもあった。それでもブレずにやってこれたのは、ドイツ戦で受けた衝撃をいつまでも心の片隅に置いてこられたからだろう。「そのときのことを忘れることなく、今までトレーニングや試合に臨んできました。そして6年半たった今、やっとチャレンジしたいと心から思えるまで成長できたので、このタイミングで移籍を決断しました」。

 ドイツへの海外移籍は、あの日、「いつか…」と思い続けた18歳の少女が、目標を失うことなく持ち続けたことで、やっとかなったものだった。

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 成田空港で行われた出発のセレモニー。植田ほどではなかったが、報道陣に囲まれた猶本は「日ごろから欧州の選手たちとトレーニングや試合ができるのは、国際試合を戦う上でもすごくメリットになる。どんな練習か分からないけど、向こうで練習の中から新しい環境や感覚でやれるのはすごく楽しみ」と胸を躍らせた。

 来年はフランスで女子W杯が控える。2020年には東京で五輪も開かれる。「なでしこジャパンが再び世界一になるためには、日本の女子サッカー選手1人1人が成長して、日本を強くするしかない。その選手の一員になれるように、しっかりドイツで成長してきたい」と誓った。

 ロシアで開かれている男子のW杯では、自身とポジションが重なるMF柴崎岳のプレーに感銘を受け、フランスFWエムバペの規格外な身体能力に驚かされたという。そして何よりも、日本代表の活躍によって日本が盛り上がった現実に、来年以降の自分たちの姿を重ね合わせもした。

 「日頃、サッカーを見ていない方や(サッカーを)知らない人でも(男子)日本代表の活躍を応援していたと思うし、すごく勇気をもらいました。なでしこジャパンも、そういうチームになれるようにできたらいいなと思います」。

 そのための挑戦。植田にも劣らない意欲を持って、猶本も日本を旅立った。