ドルトムントMF香川真司(29)が、2度目の出場で16強に進んだ18年W杯ロシア大会を振り返った。負傷を乗り越え、迎えた初戦コロンビア戦で先制PKを決めて勝利。無得点、未勝利で1次リーグ敗退した14年ブラジル大会の悪夢をかき消した。初の8強を懸けたベルギー戦は逆転負けしたが、相手MFアザールのような存在が今後の躍進に必要と痛感。個を伸ばすべく、スペイン移籍への思いが強まったことを単独インタビュー第2弾で語った。【取材・構成=木下淳】

-まずW杯を迎える前の心情はどうだったか

香川 けがが長引いて焦りを感じていたし、メンバーに選ばれるか分からず、直前に監督も代わった。なのに負傷でアピールしようがない。緊張、ストレス、不安、いろいろな感情を押し殺すためにトレーニングし、切り替えようと必死だった。それでも開幕に照準に合わせ、4月下旬にようやく復帰できてからは絶対に間に合うと思っていた。

-本大会には、どんな思いを持って挑んだか

香川 前回大会の結果は底辺中の底辺。何ひとつ得られなかったけれど、あの経験があったからこそ4年間かけて自分を見直せた。

-最も重要なコロンビア戦で勝ち、得点も決めた

香川 大事な初戦の、まさかあの時間帯にPKが取れると思わなかったけど、これも運命で自分に託されたな、と。今大会はVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)もあったし、PK練習はしていたので冷静だった。相手にも僕のPKの情報はなかったはず。

-4年前は逃した1次リーグ突破時の心境は

香川 安堵(あんど)感は全くなかった。一瞬のうれしさはあったけど、満足したり、浮かれると良いことがないので感情をコントロールした。セネガル、ポーランド戦は満足できる内容ではなかったので、何をすべきか整理し集中し、決勝トーナメントに臨んだ。

-ベルギー戦は2点リードも終盤に大逆転負け

香川 まだまだ経験と試合を締める力が足りなかった。日本では2-0は危険なスコアと言われるけど、絶対に勝たないと。ましてや残り15分。悔いが残る。

-敗れたが16強入りしたW杯を終え、これからの日本はどう進むべきか

香川 選手の大半が海外に出て、1人1人が厳しい環境でもまれてきたから結果が出た。偶然ではなかった。開幕2カ月前の監督解任なんて普通は考えられないけど、逆境の中、どう1つになるか、何をすべきかを共有できた。4年間の積み重ねはウソではなかったし、今後も海外の厳しい環境に身を置くことが大事。

-その中で香川真司は何を追求していくのか

香川 良くも悪くも日本では「チームのために」という言葉が出がち。1歩、間違えば個性を失うことになる。W杯で、あらためて個の力を持つチームは強いと実感した。例えば、ベルギーのアザール。彼のような選手が出てこないと。ドルトムント、マンチェスターUでは強烈な身体能力、圧倒的な個を持った選手を生かしてきたけど、どこかバランスを見ていた自分がいた。海外で生き抜く上では必要だけど、その割合を問いただしていく。もっと自分にフォーカスして、得点とアシスト、特にゴールを奪いにいきたい。日本人が誰もいないチームでも自分が中心になる気持ちで。

-それがスペイン移籍を目指す理由なのか

香川 相手に恐怖心を抱かせ、味方には自信をもたらす存在の必要性をロシアで痛感した。日本が、あらためて高い組織力を示せた分、次は「個」。日々の練習で磨かれるものなので、今の環境を変えることが1つの解決策。自分のスタイルはスペインのサッカーにマッチすると思うし、プレーもイメージできている。

◆香川とW杯ロシア大会 2月に左足首を負傷し、復帰まで3カ月を要したがメンバー23人に滑り込み。初戦1週間前のパラグアイ戦で1得点1アシストし、トップ下の先発を奪い返した。そのコロンビア戦では開始3分のシュートが相手ハンドと一発退場を誘い、PKを獲得。自ら蹴って先制し、2-1で勝った。日本のW杯史上初めて、先発し、点を決め、勝利した背番号10になった。第2戦セネガル戦も先発し、第3戦ポーランド戦は温存。決勝トーナメントのベルギー戦はフル出場で乾の2点目をアシストしたが敗退した。

◆W杯ロシア大会のアザール ベルギーの10番を背負い、86年W杯の4位を上回る初の3位に導いた。正確なトラップと加速力で相手を置き去りにし、ボールロストも極めて少ないドリブルが武器。日本屈指のMF乾も「あのドリブルは止められなかった」と感服した。今大会は全6試合に出場し3得点。うち3試合でマン・オブ・ザ・マッチに輝いた(チュニジア戦、日本戦、イングランド戦)。