[ 2014年2月15日9時21分

 紙面から ]棄権するプルシェンコ(撮影・井上学)

 1つの時代がその母国で終わりを告げた。団体戦で復活の演技をみせていたエフゲニー・プルシェンコ(31=ロシア)が、男子SPの直前で棄権し、引退を表明した。02年ソルトレークシティー大会で銀、06年トリノ大会は金、10年バンクーバー大会は銀、そして4度目の五輪-。力強い4回転ジャンプで名を残した「ロシアの皇帝」は雄姿を見せることなく、リンクを離れた。

 6分間練習が始まって2分が過ぎたころだった。表情が苦しみにゆがむ。トリプルアクセルの着氷が乱れると、そのまま両手を両膝についた。その後もジャンプは跳ぶが精彩を欠く。直後の滑走順で名前がコールされ、会場が異様な興奮状態に陥る中、ミシン・コーチらと言葉を交わす。そして、そのまま審判員の元へ。棄権を告げ、無念の表情で両手を観客席に振った。

 12日の練習の4回転ジャンプで転倒し、慢性的な痛みが再発。右脚にも痛みを発症した。「腰にナイフが刺さったようだった」「神様が言っているように思う。『エフゲニー、もう十分だ。もうスケートは十分だよ』って」。淡々と話す姿が悲痛だった。

 昨年1月に腰を手術。それが体にメスを入れるのも12回目だった。12月のロシア選手権でコフトゥンに敗れ、異例のテスト演技会で代表となった。団体ではロシアの優勝に貢献。以前から個人種目は故障を理由に棄権するとのうわさはあったが「最後まで演技するつもりだった」と反論した。

 ミシン・コーチは「これは悲劇ではない。彼が歩んだ20年以上の功績は素晴らしい」とたたえた。今後はショーなどで滑りを披露する。「健康になりたいよ」。そんな当たり前の希望を口にして、皇帝がその座を降りた。【阿部健吾】