[ 2014年2月14日8時47分

 紙面から ]銀メダルを胸に笑顔を見せる渡部暁(撮影・PNP)

 ノルディックスキー複合の個人ノーマルヒル(NH)で銀メダルに輝いた渡部暁斗(25=北野建設)が一夜明けた13日、ジャパンハウスで会見を行い、同競技で史上初の個人複数メダルを宣言した。同競技で94年以来20年ぶりの個人メダルをもたらし、次のターゲットに18日の個人ラージヒル(LH)での金メダルを掲げた。ジャンプの好調ぶり、狭い距離コースと好材料もあり、自信を深め快挙に挑んでいく。

 20年ぶりの複合個人メダル獲得が、さらなる快挙の予感を漂わせる。渡部暁は前日、300通以上のメールなどで多くの人に祝福された。この日の会見後は駆けつけた橋本団長に「おめでとう」と言われ抱きしめられた。祝福ムードに包まれたものの、余韻に浸ってばかりはいられない。「金メダルが近づいている」。同競技では誰もなし得ていない個人複数メダルを意識した。

 期待を高めるNHの戦いだった。前半ジャンプを2位で終え、W杯総合王者のフレンツェル(ドイツ)と6秒差でスタートした後半距離。すぐに追いつくと、交互に引っ張り合い攻防は終盤までもつれ込んだ。最後で振り切られ2位に終わったが、3位以下を封じ込める高い走力を見せつけた。「いいジャンプができたし、後半も自分の走りはできた」と自己評価した。

 鍵を握るジャンプの好調さがLHでも武器になる。大きな台に替われば当然、飛距離の差が出て、NHのように僅差だった後半距離では差が大きく開くだけに重要になる。高校時代から指導する山田コーチは「ジャンプが安定している。安心して見てられる」と評価。また、メダルを手にしたことで渡部暁は「気持ちに余裕が生まれた」と気負いもない。

 距離コースの形状も後押しする。林道を切り開いた走路は他のW杯開催地と比べ狭く、ヘアピンカーブも多い。場所によっては2人並ぶのが精いっぱい。大会前から「コース幅が狭く差を詰めづらい」が共通認識だったが、NHでさらに思いを強くした。好調な前半ジャンプのリードで後半逃げ切りの“必勝パターン”に持ち込みやすい。

 過去、スキー競技で個人複数メダル獲得は、98年長野大会のジャンプ船木和喜だけ。W杯個人総合3連覇を果たした荻原健司さえ果たせなかった個人メダルを獲得しても満足はしない。「(高梨)沙羅ちゃんの戦いを見て金メダルを取る難しさを実感した。でも、そこにひとつの目標として掲げ挑戦していく」と気を引き締める。「五輪よりW杯が最強の舞台」と話す強気な男が、LHで歴史に挑戦する。【松末守司】

 ◆複合個人戦の競技方法

 1回のジャンプ得点(飛距離点+飛型点)をタイムに換算(15点=1分)。飛距離点はK点が基準点(60点)となり、NHは1メートル=2点、LHは1メートル=1・5点が加点、減点される。後半距離はそのタイム差で首位からスタートする。