[ 2014年2月28日9時31分

 紙面から ]高梨沙羅は出発前に囲み取材に応じる(撮影・松本俊)

 失意のどん底から、昨季女王が立ち上がる。ノルディックスキー女子ジャンプの高梨沙羅(17=クラレ)が27日、今季W杯残り6試合に参戦するため、欧州に向かった。絶対V候補と期待されたソチ五輪は、よもやの4位。「号泣した」という男子団体を発奮材料に、2シーズン連続のW杯総合優勝に向かう。

 「初めてプレッシャーの恐ろしさを感じた」というソチの悪夢から約2週間。心の傷は、簡単には癒やせないだろう。それでも高梨は気丈に言葉をつないだ。「初めての五輪で悔しい思いを、たくさんしました。次はW杯の総合優勝を取りに行きたい」。4年後の平昌五輪に向けても「技術面も精神面も、かなり鍛えないといけないと思う」と話した。自分と真正面から向き合う姿勢は変わらない。

 沈んでばかりはいられない-。それは18日未明の五輪男子ジャンプ団体戦から教えられた。葛西に率いられ、故障や難病を抱える戦士が銅メダル獲得。男子の競技があった「1週間は(テレビ観戦で)寝不足」の日々を送りながら「勇気がすごい。団体戦もチームの力で勝ち取ったメダル。見てて号泣しました」。小声の中に、感情の高ぶりを2文字に凝縮した。

 転機もあった。22日の山形国体。W杯初Vを飾った地で、恩返しのテストジャンパーを務めた。メダルの手土産はない。だが精いっぱいの飛躍で応えた。「心の整理をする暇もなく飛ばせてもらいました。今までテストジャンパーさんのおかげで滞りなく競技ができたし、大変さも身に染みて分かった」。ゼロからのスタートを切れた。

 一発勝負で決まる五輪メダルは欲しかった。だが、それに劣らぬ勲章が目の前にある。積み重ねで得られるシーズン実力NO・1の座。五輪の反省こそすれ、失意は引きずらない。「この後は会場の人に楽しんでもらうようなジャンプがしたい」。

 2季連続女王の座は3月1日にも決まる。総合3位のイラシュコが左膝を負傷し今季は絶望的。残る相手は同2位で五輪金のフォクトだけだ。優勝-6位以下、2位-7位以下…などで決まる。五輪会場で泣き崩れる寸前、気丈にも、そのフォクトを笑顔で祝福した。今度は世界中のジャンパーから自分が祝福される番だ。【渡辺佳彦】