
広島は廿日市に来た。広電の駅から海沿いにあるという醸造蔵を目指して坂道を下る。潮の香を感じた頃、遠目に大きく「ダルマ」と書かれた蔵壁を見つけた。何でも、原料すべて広島産にこだわり造った「広島の焼酎」だという。描かれた達磨のイラストは、口を真一文字に結び、見上げる者をギロッとにらみつけているようだ。凛と澄んだ秋の空気の中、緊張感とともに蔵に入った。
「ダルマ」は地元では知らない者がいないほどお馴染みの「甲類」焼酎だ。03年にブランドを一新、本格焼酎の「乙類」焼酎として名前を「達磨」と漢字表記に変えた。「とにかくここにしかないものを作りたかった。鹿児島では飲めない広島の本格芋焼酎を目指した」。酒造りの原点に立ち戻って、徹底的に地元産の原料にこだわった。
酒芋は庄原産の「紅あずま」を選んだ。通常、焼き芋などで使われる甘いさつま芋を焼酎に使用した。鹿児島焼酎で定番の白芋「黄金千貫(こがねせんがん)」を意識して、あえて違う品種を選んだ。

芋はJAの契約農家により管理、記帳が徹底された高品質栽培によって収穫、工場に運ばれた通い箱には1つ1つ作った人の名前が書かれていた。まるまる太った豊かな芋は土がついたまま入荷されているが、これは品質、特性を保つためとのこと。あらゆる点で安心できる素材だ。工場を仕切る山本泰平さんによると、「今年の芋は焼酎用としては上々。昨年より粒も大きい」。雨が少なかったことで根の活着がよく、結果的にでんぷん量の多い芋が収穫できたと言う。
もちろん水にもこだわった。営業企画部の竹内慎吾さんは「旨さの源」と表現。竹原市の田万里の軟水は、「女酒」と呼ばれる広島の柔らかで優しい口当たりの酒を生み出す。これを「達磨」の割水に使い、すっきりした旨さに仕上げた。ほかにも竹原市産の竹炭を蒸留後の濾過工程で使用。「味の角がとれマイルド感が増す」とのことだが、目に見えない工程まで「広島」にこだわった。

この日は麹の仕込み工程から、蒸留工程まで見学できたが、随所に「達磨」の旨さへのこだわりが見えた。焼酎造りで近年定番となった「黒麹」を使用、コクと柔らかな香りの源となる。また、蒸留に至ってはなんと2種類をブレンドするのだと言う。まずは、もろみを直接加熱して焼酎を蒸留する常圧蒸留。焦げ臭い香りが印象的で、これが旨さに影響を与えるというのだが、特に九州の焼酎に代表される重厚な味を演出するとのこと。一方で、もろみを加熱するとき釜を減圧の状態にして沸点を下げる減圧蒸留だ。低温でゆっくり蒸留するためフルーティーな香りが漂う。この2つの原酒を絶妙な割合でブレンドし、芋焼酎独特の香りを残しながらフルーティーな味わいを作り上げた。
山本泰平さんは焼酎に関して元々下戸だったと言う。「だからこそ、飲めない自分が飲んでみたくなるような焼酎を作ってみたかった」。新生達磨を作った03年、知り合いを頼って県内から芋をかき集めた。「あのときの苦労は忘れられない。でも広島産にこだわった本格焼酎ができたときの喜びも格別だった」。なるほど、この心意気と広島産にこだわり抜いた職人魂が「オンリー1」の本格芋焼酎を生んだのだろう。帰り道、振り返ると「達磨」のイラストが何か誇らしげに笑いかけたように見えた。
◆紙容器で清酒パイオニア 中国醸造は今では当たり前の紙パック酒を日本で初めて導入した蔵として有名だ。スウェーデンのテトラパック社と提携したり、独ツーパック社と商品開発したりと広島の地から世界レベルの商品を生み出している。