<アジア大会>◇第2日◇20日◇韓国・仁川

 元世界女王が復活した!

 柔道女子52キロ級の中村美里(25=三井住友海上)が、アジア大会連覇を果たした。決勝でババムラトウ(トルクメニスタン)に小外刈りで一本勝ち。3試合オール一本で「金1号」を手にした。12年ロンドン五輪の初戦敗退から手術を乗り越え、2年後のリオデジャネイロを見据えた。

 力は抜かなかった。中村は左足でババムラトウの右足を刈った。審判の「一本」コールにも抑え込みの状態を崩さない。「最近は審判の判定があとで変わるので、変わってもいいように抑えた」。3試合オール一本でアジア大会を連覇、金1号のおまけもついた。

 「すごくうれしい。前回の優勝とは違う。手術とかを乗り越えての金なので」

 12年ロンドン五輪で屈辱の初戦敗退。同年11月に左膝を手術して笑顔を失った。昨年12月にも「水がたまってきていたので」と、ボルト除去の手術を受けた。

 術後3カ月は柔道着に袖を通せなかった。ナショナルトレセン(NTC)でのリハビリ。他競技の選手たちと触れ合った。スキー、バスケットボール、バレーボール、ソフトボール、カバディ…。「自分は恵まれているな。皆が頑張っているし、自分も頑張ろうと。強い気持ちが増えた」。

 誘われて、慣れない手つきで剣を持ち、フェンシングをした。休日は寮を出て、他競技の選手と関わった。「ちょっとずつ笑顔が出せるようになってきた」。そんな日々を過ごし、3大会連続五輪となるリオが視界に入った。今大会前、リオ五輪について「手術する前は考えてなかったんですけど」を前向きに言った。

 悪夢も振り払った。この日の初戦は北朝鮮の選手だった。ロンドン五輪で敗れた相手と同じ国。結局、相手の欠場で不戦勝となったが「少しロンドンがよぎったけど、五輪での悔しさをぶつけたいと思った。ちょっと残念」と口にした。

 女子52キロ級は、8月の世界選手権で橋本がメダルを逃した。復活した中村が代表争いに浮上するのは確実な情勢だ。「ここで結果が出たので次につなげて。リオに向けてひとつひとつやっていきたい」。2年間の空白を乗り越えて、世界女王が帰還した。【益田一弘】

 ◆中村美里(なかむら・みさと)1989年(平元)4月28日、東京都八王子市生まれ。東京・渋谷教育渋谷高1年の05年12月、福岡国際女子を谷亮子以来となる16歳で制覇。卒業後、三井住友海上入り。08年北京五輪銅メダル。09年、11年に世界選手権優勝。得意は小外刈り。157センチ。