「世界最速男」が、その称号を守った。ウサイン・ボルト(29=ジャマイカ)が、シーズンベストの9秒79で優勝した。今季は左足を故障し、限界説もささやかれる中、準決勝も辛勝の通過。ボルト伝説の終幕か-と思われたが、ジャスティン・ガトリン(米国)を100分の1秒差に抑えた。

 圧勝ではない。会心のレース展開ではなかったかもしれない。それでもボルトはボルトだった。絶対王者が最速でフィニッシュラインを駆け抜けた。

 ボルトはレース後「調子は万全ではない。ただ僕の目標は引退するまで1番であり続けること。衰えたという人がいるかもしれないが、まだまだ速く走れる」と意気揚々に話した。7年前に伝説の始まりとなった同じ北京の地で、牙城を守った。

 ボルト、危うし-。そんなムードが大会前から漂っていた。左足の故障で、7月に2試合を欠場した。今季自己最高は9秒87。最大のライバルであるガトリン(米国)は、今季は9秒74と絶好調。これは13年モスクワ大会でのボルトの優勝タイム(9秒77)を上回っているものだった。ボルトは11年大邱大会の男子200メートルから、五輪を含めた世界大会で8連勝(リレー含む)。その不敗神話が途切れる可能性が浮上していた。

 だが、「今シーズンは決して順調にはきていませんが、コーチの指導によってベストの状態に持ってこられることを強く確信しています」。21日に29歳になった「稲妻」は必勝を誓っていた。そして勝った。世界選手権では通算9個目の金メダルとなり、男子のカール・ルイス(米国)らを上回って史上最多となった。来年のリオデジャネイロ五輪を前に、大舞台での強さをあらためて証明。人類最速の座は、誰にも譲らなかった。