箱根駅伝(来年1月2、3日)を知り尽くす「ツウ」たちが、独自の視点で箱根を語る連載の4回目。今回は、大会を長年にわたり見守る裏方にスポットを当てました。ランナーを優先させた箱根登山鉄道の決断、そして小田原中継所・鈴廣かまぼこの取り組みを紹介します。

 人が優先の踏切がある。山登りの5区と下りの6区のほぼ中間点の小涌谷踏切。そこには大会のスムーズな運営と、選手の安全面を考えた箱根登山鉄道の決断があった。

 かつては高架化された京急蒲田踏切も含め、電車通過による足止めは当たり前で、数々のドラマを演出してきた。小涌谷でも閉じられた踏切前での選手の立ち往生は珍しくなかった。元運転士で箱根登山トータルサービスの高橋安衛常務取締役は「選手を止めて走らせると、観客の視線が厳しく注がれ、何か申し訳なかった」と振り返る。

 転機は90年代後半。同鉄道の岡邦博課長代理によると、ある運転士が気を利かし青信号で止まり、選手を走らせた。以後、大会中は選手優先で、電車が踏切で止まることが、ルール化された。

 踏切で優先権のある電車を止めることは簡単ではない。登りの5区では約300メートル下、下りの6区では上に人員を配置。踏切そばには電車を止める人間と、踏切を動かす人間、そして現場責任者の総合運転所所長が最終判断を下す。

 昨年度、電車は最大で約10分止まった。小林久芳所長は「選手の安全、レースを止めないことが最優先。もちろん乗客もいるので、電車の遅延も最小限にしないといけない」と判断の難しさを口にする。小林所長は携帯電話2台と小型テレビでレース状況を把握。目の前には各大学の名前とスクールカラーを入れたカードを順位ごとに並べ替えて万全を期す。

 今日28日、小林所長は小涌谷踏切の約1キロ手前の宮ノ下から歩いて現場を確認する。「駅伝同様、我々もチームワークが大切」と大会当日のメンバーとリハーサルも行う。火山活動などで揺れた箱根の1年。「まずはレースを成功させて箱根に春を呼びたい」。近年は勝負を分ける区間だけに、踏切での判断はより重要になっている。【田口潤】

 ▼小田原の鈴廣かまぼこは復路7区の中継所として有名だ。鈴廣では67年大会から7区のトップ通過の選手の足形をとっている。足形は本社横の博物館で大切に保存。小川企画マーケティング課長は「まだ計画はないが、いずれ展示したい」。05年までは5区の中継所だったため、往路の2日も選手通過の昼すぎから、かまぼこと地元の日本酒を沿道のファンに振る舞っている。