陸上の競歩男子五輪代表に、リオデジャネイロ五輪に向けて前線基地が準備される。選手村近くに3LDKのマンションが用意されて、マッサージやバスタブなど、力を発揮できる環境が整えられる。文科省のマルチサポート事業によるもので、競歩では初めてのケースになる。堂々のメダル候補種目として「競歩ハウス」からリオでの活躍を狙う。

 競歩男子が最高のバックアップを受ける。リオデジャネイロ市内の選手村近くに、専用の「前線基地」が用意されることが分かった。日本陸連の今村競歩部長は「本当にありがたいです」。1936年ベルリン五輪に奈良岡良二(19位)が初出場してから80年。悲願のメダル獲得へ、環境が整う。

 「競歩ハウス」は、メダル獲得が有望な競技を重点支援する文科省のマルチサポート事業によるもの。競歩代表が独占できる3LDKのマンションで、選手村で実現が難しい特典がいっぱいだ。湯船につかれるバスタブ、待たずに受けられるマッサージ、日本の食材を扱う商店も近くにある。ホームに近い環境で競技に集中できる。すでに関係者が下見を終了。代表は選手村を使わず、基本的にはここで寝食を共にする。

 日本競歩は、今村部長の方針もあって所属の垣根を越えて活動。練習法や知識を共有し全体でレベルアップしてきた。独自路線をいく公務員ランナー川内優輝が「競歩は仲が良くてうらやましい」というほど。共同生活はお手のものだ。

 陸上では女子マラソンが専用ハウスを使ったことがある。競歩陣も空き時間に「間借り」したことがあるが、今回は別の拠点になる。昨年3月に20キロで鈴木雄介が世界記録を樹立して、競歩への注目度が飛躍的にアップ。女子マラソン級のサポートを受けることが「競歩新時代」の象徴だ。

 選手にとって朗報だ。この日は世界チーム選手権(ローマ)からリオ代表の高橋英輝(23=富士通)らが帰国した。高橋は最後の700メートルでフェンスに激突して転倒するなど、12位に終わり「入賞もできず悔しい」。日本チームとしても慣れない環境でレース前にのどを痛める選手もいた。高橋は「現地になじむことも大切だが、日本と同じような環境にすることも大切。私たちは弱いが、世界の選手も驚くほど強いわけじゃない。ベストパフォーマンスなら十分にやれる」。初めての専用基地を追い風にしてメダル獲得を目指す。【益田一弘】

 ◆日本競歩の世界大会 1936年ベルリン五輪男子50キロに奈良岡良二(19位)が初出場し歴史が始まった。五輪はメダル獲得がなく、入賞も08年北京同50キロで7位だった山崎勇喜1人。世界選手権は、昨年の北京大会で谷井孝行が初の銅メダル。

 ◆マルチサポート事業 五輪競技を強化するために国が08年にスタートさせたトップ競技者に対するサポート事業で、文部科学省が日本スポーツ振興センターに委託している。支援はA、B、Cの3段階に分かれ、競歩男子は女子マラソンと同じ「ターゲットB」。最高ランクの「ターゲットA」は競泳男女、体操男子、レスリング男女、柔道男女などが指定されている。

<競歩の注目度アップ>

 ◆報道陣アップ 2月開催の日本選手権20キロ(兵庫)の前日会見は、14年が記者1人、15年は約10人。しかし同年3月に鈴木が世界記録を出しヒートアップ。今年は約70人が詰めかけ会見場が満員。関係者は「競歩で記憶にない」。2年で70倍となった。

 ◆露出アップ 世界記録保持者鈴木は昨年5月にプロ野球巨人-ヤクルトの始球式に登場。マウンドまで歩きを披露し、東京ドームを沸かせた。五輪代表の藤沢は、所属先ALSOKのテレビCMで初めて単体のカットが実現して「まさかですよね。ありがたい」。

 ◆実力もアップ 昨夏世界選手権で谷井が日本初の銅を獲得。20キロの今季世界ランクは1位高橋、2位藤沢、3位松永と日本勢で独占。