8月の世界選手権(ロンドン)代表の川内優輝(30=埼玉県庁)が1時間4分6秒で、日本人選手で2番目(全体では15番目)でゴールした。

 ゴールした後は、ぎふ清流ハーフマラソンでは恒例となったハイタッチなどで市民ランナーと交流。その後の会見では、さわやかな口調ながら、本音をズバズバ言い放つ川内トークがさく裂した。

 レース展開としてはケニア勢についていけず、遅い第2集団に甘んじたため、1時間4分台に終わった。川内は「不本意なタイムでした。ただ、後半で集団をふりちぎって前から落ちてきた選手を拾うことができました。そういう点ではいいレースができたと思います」と、じょうぜつに総括した。

 ただ、川内が本当に言いたいことは会見冒頭のあいさつからはじまっていた。「市民ランナーのみなさんとのハイタッチで会見が遅れて申し訳ありません」と、律義に報道陣にあいさつした。レース後の市民ファンとの交流は、川内のような一流ランナーとすれば大事な振る舞いだが、それでも礼儀正しく会見が遅れたことを謝罪した。

 そこから、川内らしさが爆発した。

 川内 レース途中で、市民ランナーの皆さんから、「川内頑張れ」「ロンドンでも頑張れ」と声をかけていただきましたが、レース中なので手を振ることも、あいさつもできません。でも、レース後なら僕もハイタッチなどができます。レース中に応援していただいて力を与えてくれたのですから、レースが終わったら今度は僕が返す番だと思います。数年前に偶然的にハイタッチがはじまりましたが、「来年もやってね」とか「去年もやったね」と声をかけていただき、今は単純に面白いと感じてやっています。ゴール前だとランナーの皆さんもハイテンションで、僕もお祭り気分でハイテンションになれます。今は、楽しいから続けています。

 ゴールデンウイーク前のさわやかな岐阜の街並みと、長良川を吹き抜ける風が心地よく、川内は何度も何度もゴールとスタジアム入り口を往復しては、市民ランナーとハイタッチを繰り返していた。

 川内 陸上関係者の方はよく口では、野球やサッカーに負けないようにって、言いますけど…。僕が弱い時は、強い選手はすごいなあと感じていましたが、強い選手はレースが終わるとサーッと帰ってしまう。それでいいのかなって思っていました。特に日本代表はそうです。(体調管理などに)支障がないなら、応援してもらったんだから、自分たちも応援していけば、いい関係になれると思います。試合前に、ファンの方がアップに集中したいランナーにサインや写真撮影を求めることがあります。それだって、レース後にサインや写真撮影を、(一流ランナーが)できる範囲でやれば、試合前のアップに集中できるようになると思うんです。マラソンの選手はクールで冷たいって、言われるんですが、レース後に応じてくれるならいくらでも応援するよ、ってことになるんじゃないかと思います。そういうルールづくりを陰ながらやっていきたいと考えていますし、そういうのが広まっていけばいいなと思います。

 早口で話す雰囲気には川内の情熱がほとばしっている。根底には、市民ランナーとして練習と公務員を掛け持ちしながら、一般市民ランナーの応援に支えられて代表選手にまでなれたことへの感謝がある。言いづらいテーマも、川内のストレートな熱さはいとも簡単に射抜いてしまう。この日の晴れやかな天気のように、公務員ランナー川内の漏らした提言は、実はマラソン界にとって非常に大事な言葉に感じた。

 高橋尚子杯ぎふ清流ハーフマラソンは、世界のロードレースを大会の規模などによって格付けする国際陸連の制度で、同大会が「シルバー」から最高位の「ゴールド」に昇格した。ハーフマラソンでは国内初の取得になるという。レース後に高橋尚子さん、野口みずきさん、そして大迫傑が市民ランナーと触れ合っていた。記念すべき大会に、将来の日本マラソン界の可能性が少しだけかいま見えた。【井上真】