男子100メートルで、ケンブリッジ飛鳥(23=ナイキ)が世界と肉薄した。記録は向かい風1・2メートルの中で10秒31と平凡だったが、リオデジャネイロ五輪銀メダルのジャスティン・ガトリン(米国)に100分の3秒差の2着に入った。狙っていた8月の世界選手権(ロンドン)の参加標準記録10秒12切りは悪条件に阻まれたが、確かな自信を深めた。

 その差はわずか0秒03、体1つ分だけだった。4レーンのケンブリッジは左隣3レーンのガトリンを追い詰めた。課題の前半はリードを許すも、得意の中盤からぐんぐん加速。80メートル付近でリオ五輪銀メダリストの背中を捉えかけた。「いけるかな」。その瞬間、力みが生じた。最後はまくれなかったが、番狂わせも期待させた好走。レース後は握手で健闘をたたえ合った。

 向かい風1・2メートルの悪条件もあり、タイムは世界選手権の参加標準記録に及ばない10秒31。ただ、ガトリンと互角に渡り合ったことに意味があった。「自信になる。しっかり最後まで競ることができた」とうなずいた。ガトリンとはリオ五輪の準決勝でも対決。0秒23差をつけられ、勝負にならなかった。オフは筋力トレーニングにさらに力を入れ、持ち味の中盤のスピードを磨いた。ガトリンの状態が万全でないとはいえ、縮まった差が成長の跡だった。

 今季からプロに転向。実業団という安定を捨て、退路を断った。昔から有言実行の男。東京・深川第三中時の春、当時担任だった大原章博先生との面談で「全国大会に行きます」と宣言した。当時は全国的に無名の選手だったが、東京都で2位になり、目標を達成した。自ら重圧をかけて成長を促すスタイルは昔から変わらない。次走は来月4日の布勢スプリント(鳥取)。「参加標準を目指しながら、9秒台を目指したい」。ガトリンとの勝負を自信に変え、日本人初の9秒台への道を切り開く。【上田悠太】