山県亮太(25=セイコーホールディングス)が決勝で追い風0・2メートルの条件下、日本歴代2位タイの10秒00をマークした。今夏の世界選手権出場を逃し、目指していた日本人初の9秒台も桐生祥秀(21=東洋大)に先を越されたが、自己記録を0秒03更新して意地を見せた。桐生が10秒の壁を突破してから、15日後の好記録。歴代10傑のうち6人が17年に記録され、日本スプリント界は新時代に突入した。

 山県は抜群の飛び出しから後続を引き離した。連覇を決めて、速報タイムは10秒01。普段なら10秒ほどで電光掲示板に映される公式タイムがなかなか出ない。会場はもしや…の期待感からざわつく。約2分半待たされて出た数字は、日本歴代2位の10秒00。9秒台には約10センチ届かなかったが、「1年間いろいろあった。残念でもあるけど、喜びが強い」と感慨に浸った。

 先を越された桐生には特別な感情がある。13年織田記念国際。12年ロンドン五輪で準決勝まで進んだ山県は、主役のはずだった。会場入りから注目されたが、その5時間後、彗星(すいせい)のごとく現れた高校3年生が10秒01を出すと環境は一変。帰り道は周囲から人は消え、声もほぼ掛けられない。父浩一さん(57)と2人きりで家路へ向かう車中も沈黙の時間が続いた。結果が全ての勝負の厳しさを痛感させられた。

 あの9月9日。練習終了後、瀬田川マネジャーから「インカレで桐生君が9秒98を出しました」とラインで報告を受けた。「すごい喪失感があった」山県の返信は「了解です」とひと言だけ。ショックで押しつぶされないよう目標を「日本記録を更新する」と再設定し、自分を保った。桐生には0秒02及ばなかったが、風を考慮すれば、匹敵すると言っていい快走だ。

 練習で欠かさないことがある。どんなに短い距離でも流しても1本1本、瀬田川マネジャーが撮影した映像を確認。仲田トレーナーは「イメージを具現化する一流の力がある」と強さの秘密を言う。繊細に理想のフォームを追う。不調だった9月からはリオ五輪男子100メートル銅メダルのデグラッセ(カナダ)の動画を繰り返し見て、「重心や力の乗せ方」を参考にした。いいイメージを刷り込ませ、後半も失速しなかった。

 「僕にもプライドがある。まだ100点じゃない。自分の走りをすれば記録は出る」。来月の愛媛国体にも出場予定。失った主役の座を奪い返す。【上田悠太】

 ◆山県亮太(やまがた・りょうた)1992年(平4)6月10日、広島市生まれ。修道中、高から慶大を経て、15年にセイコーホールディングスに入社。16年リオ五輪は100メートル準決勝進出、400メートルリレーは1走で銀メダルに貢献。17年日本選手権は6位。176センチ、72キロ。