男子円盤投げで25歳の湯上剛輝(まさてる、トヨタ自動車)が62メートル16の日本新記録を樹立し、初優勝を果たした。

 自己記録は59メートル30だったが、1投目でいきなり59メートル51をマーク。61メートル02を記録した3投目で、堤雄司(群馬綜合ガードシステム)が持っていた60メートル74の日本記録を更新した。そこから4投目で62メートル03、5投目で62メートル16と2度にわたって“上書き”し「むちゃくちゃうれしいです。今までずっと目標にしてきた記録。『うれしい』としか出てこない」と笑顔を見せた。

 生まれつき両耳がほとんど聞こえず、普段は左耳に装着した補助器具と、相手の口の動きを見ながら会話をするが「日常生活では電話ができない」と説明する。そのため「球技をしたかったけれど、それ以外の種目をやってきた」。小学生の頃は水泳、中学生で陸上に出会い、滋賀・守山高に入学してから円盤投げを始めた。その経緯でさえも「砲丸投げをやりたかったけれど、全然飛ばなかった。円盤投げの方が何倍か距離が出て、頑張れば頑張るほど、距離が伸びたんです」と183センチ、107キロの巨体で豪快に笑う。

 中京大に進学し、1年の頃から日本記録を目指し始めた。卒業後、トヨタ自動車に進んでからは、トップリーグに所属するラグビー部のトレーナーにも体作りの助言をもらいながら、地力を付けてきた。

 自己ベストを3メートル近く上回り、大会前時点の日本記録も1メートル42更新。自らも驚く躍進ぶりだが、冷静さも兼ね備える。

 「世界陸上を見ていても、65メートルは投げないといけない。62メートルをやっと超えましたが、世界との差を考えながらやっていきたい」

 17年世界選手権(ロンドン)の優勝記録は69メートル21、8位入賞ラインでさえ64メートル04と、その壁は高い。確かな手応えを自信に、世界との距離を縮めにかかる。