今月のシカゴ・マラソンで2時間5分50秒の日本記録を出した大迫傑(27=ナイキ)が18日、都内でインタビューに応じた。勝負重視の哲学、20年東京オリンピック(五輪)の位置付け、引退後はコーチとして陸上界に貢献したい思いなどを明かした。【取材・構成=上田悠太】

日本最速男は普段、口数は多くない。取材やテレビ出演も「必要であればやる感じ」。ただ持論がしっかりあるから、インタビューの場で、言葉を淡々とした口調でつむいでいく。

大迫 その日、その一瞬を大事に生きてきただけ。まだ現役。日本記録はゴールではない。僕らからしたらそんなに驚きでもない。

ただ周囲はサッカー日本代表FW大迫よろしく「半端ない」などと驚く。「それで注目してもらえる分にはいいです」と笑う。「単に自分が最大の利益を得るために動いているだけ」と話すが、注目を集めるすべも心得る。ワールドカップ(W杯)の大会期間中、ツイッターで「シカゴ・マラソンで決勝弾を決められるように頑張ります。俺は大迫傑だ」とユーモアあふれる参戦表明もした。

大迫 特に意味はないですけど、旬なワードを使った方が皆さんに走ることを知ってもらえる。

記録への興味は薄い。勝負重視が信条だ。なぜか?

大迫 記録は自分ではコントロールできない要素が左右する。例えば風、気温、ペースだったり。また周りから「設楽選手(の日本記録)はどうですか?」と聞かれるとする。僕は設楽選手のことを一から想像し、その像を作らないといけない。それはすごく無駄な作業で、価値を見いださない。何を意識すればより、自分の内にフォーカスできるか。

理想像はない。理由は明確にある。

大迫 そういうのを決めてしまうと、その道しかたどれない。瀬古さんは瀬古さん、ラップ(※1)はラップ、ファラー(※2)はファラー、僕は僕。憧れが先行すると、自分じゃなくなる。自分というブランドがなくなってしまう。そこは持たない方がいいと思う。究極を決めるというのは、限界を作るということ。そういうのはしたくない。

事実、アジア人で唯一、超一流選手が集う米国のチーム「ナイキ・オレゴンプロジェクト」に拠点を置く。実業団に所属し、日本に活動の拠点を置くのが一般的だが、プロランナーとして米国を拠点とする。他とは一線を画す男は東京五輪の位置付けも独特だ。

大迫 モチベーションの1つというだけ。出られるかも分からないし、先のこと。特別じゃないと言えば、うそになるかもしれないけど、特別なことをして臨むほど特別な大会ではない。

目の前にある目標を堅実にクリアしていく。ただ引退後の青写真はある。

大迫 指導にすごく興味がある。今、僕の環境は、日本陸上界からすれば、なかなか特別。それも利用し、うまく指導ができたら、より強い選手も育てられるかな。今後、変わってくると思うが、それが現状の希望。(日本を)出る時に大変なことがあった。それを全部取り除くのがいいかは分からない。ただもっと行きやすくするルートを作る。よりノーストレスで、日本と同じようにトレーニングをでき、強くなるのが理想。そんな環境をつくってあげられたらいい。

※1=ラップ(米国)はリオ五輪マラソン銅メダル。※2=ファラー(英国)は五輪2大会連続トラック2冠。ラップは大迫と同じナイキ・オレゴンプロジェクトで、ファラーも過去に参加。

▼東京五輪マラソン代表選考方法 19年9月15日に東京都内で開催される「マラソン・グランドチャンピオンシップ(MGC)」で男女各2人を選ぶ。17年夏から19年春までに行われるMGCシリーズで、日本陸連が定めた条件を満たせば出場権を獲得。ワイルドカードでの出場権もある。MGC優勝で五輪代表が内定し、2位と3位のうち派遣設定記録を突破している上位選手が代表入り、いない場合は2位が代表となる。残り1枠は19年冬から20年春のファイナルチャレンジで決める。

▼シカゴ・マラソンVTR 前半を1時間3分5秒で通過。ロンドン、リオ2大会連続でトラック2冠のファラー(英国)らが25キロから急激にペースを上げた。大迫は30キロまでの5キロを14分27秒でトップ集団に食らいつくなど、後半は前半を上回る1時間2分45秒。勝負どころに足を残す「ネガティブ・スプリット(後半型)」で、設楽悠が持っていた日本記録2時間6分11秒を21秒更新した。