故障に苦しんでいた鍋島莉奈(26=日本郵政グループ)が復活を印象付ける優勝を果たした。32分3秒40で、松田瑞生、前田穂南、一山麻緒と実力者がそろったレースを制した。

ラスト1周の鐘が鳴ると、一気に仕掛けた。5000メートル付近からは4人の集団の膠着(こうちゃく)状態。その中で、最後の力をためていた。一気にギアを入れ替える。レースで初めて集団の先頭に出ると、そのままライバルを置き去りにした。猛追する松田から約3秒差で逃げ切った。勝負を決められる切れ味は好調時の、それだった。

レース後は、松田から抱擁された。復活を自分の事のように喜ぶ松田、そして前田と談笑していると、3ショットを求め、多くのカメラマンが集まった。センターにいるレースの主役は「両隣が人気やから」と照れ笑いした。

「去年の8月から約1年間うまくいかないことが多くて、悩んだ1年間。我慢との戦い。支えてくれるスタッフが、温かい言葉をかけてくれて、何とか心がポッキリを折れることはなく、ここまで戻すことができた」。

2大会連続で代表に決まっていた昨年の世界選手権(ドーハ)には5000メートル、1万メートルで出場するはずだったが、右脛骨(けいこつ)の疲労骨折で辞退を余儀なくされた。そこから負の連鎖が続く。昨秋にも左足の脛骨(けいこつ)を痛め、チームは優勝だった全日本実業団女子駅伝も走れなかった。年明けと、5月にも左大腿(だいたい)部に炎症が出た。17年、18年と5000メートルの日本選手権を連覇したトップランナーも、苦しい時期が続いていた。

12月の日本選手権(大阪)は1万メートルに挑む予定。31分25秒0の参加標準記録を突破し、優勝すれば、東京オリンピック(五輪)の代表に決まる。「参加標準を切れる体の状態を作りたい。その上で優勝が付いてくれば最高」。延期がなければ、出場は難しかったであろう五輪。その舞台を明確に見据えていた。