異次元の区間新!! 女子1万メートルで日本歴代2位の記録を持つ群馬の不破聖衣来(18=拓大)がまた常識破りの快走を披露した。4区(4キロ)に登場すると13人をごぼう抜き。広中璃梨佳が持つ従来の記録を3秒短縮する12分29秒の区間新記録だ。

【都道府県対抗女子駅伝】京都優勝 群馬「フワちゃん」不破聖衣来13人抜き/詳細>

昨秋以降「陸上界のフワちゃん」の異名をとってブレーク中のニューヒロインが躍動。24年のパリ五輪1万メートル代表を目標に掲げるスーパー1年生が、夢一直線の激走を見せた。

    ◇    ◇    ◇

別格のスピードで一気に駆け抜けた。茶髪にピアス、マニキュア。小柄で、どこにでもいる大学1年生の姿にテレビは「異次元の走り」と連呼。また不破だ。22位でタスキを受けると意を決した。「スタートして前に選手がいれば追いかける」。最初の1キロを3分5秒の入りでランナーを次々とのみ込んでいった。誰もが全力を出し切る中継所直前でも周りを置き去り。13人抜きの区間新を演じた。

「いま、絶好調じゃなかった。区間新を出せてすごく自信になりました。80点くらい。最近、長い距離ばかりだった。中間点で『もう中間なんだ』って。あっという間の4キロでした」

また陸上界に衝撃だ。昨年12月11日の記録会は1万メートルを日本歴代2位の30分45秒21。今夏の世界選手権(米オレゴン州)の参加標準記録(31分25秒00)も突破した。昨秋、駅伝でも区間新&ごぼう抜きを連発した。この日もファンに写真を求められた。だが「公共の場で『不破選手ですか』と。驚いてしまって。結果はあまり実感していない。もっと強くなれば、注目していただいているのに割が合う」と地に足がつく。

154センチの体格を感じさせない、力強いストライド。秘訣(ひけつ)は腕振りだという。小学生の頃、持久走の練習で祖父の須藤康隆さんに言われた。「疲れたときは腕振りを頑張れ!」。体にしみこんだ原点だ。「昔から腕振りを意識して、自然とできるようになりました」と感謝する。

その視線は世界を見据える。拓大で指導する五十嵐利治監督(40)と「誰もやったことがない五輪2連覇を目指そう。夢を大きく持とう」と約束。24年パリ五輪1万メートル、28年ロサンゼルス五輪マラソンで日の丸をつける青写真を描く。00年シドニー五輪の高橋尚子、04年アテネ五輪の野口みずき。マラソン金メダルに輝いた日本陸上界の伝説を超える高みを目指す。不破は言う。「記録を残せるようになって世界の舞台に出られる可能性が大きくなった。チャンスを逃さず、しっかりつかみ取りたい」。着実な1歩が、世界一への道につながる。【酒井俊作】

◆不破聖衣来(ふわ・せいら)2003年(平15)3月25日、群馬県高崎市生まれ。高崎健康福祉大高崎高―拓大。無敗の3冠馬ディープインパクトと同じ誕生日(2002年生まれ)。陸上を始めたきっかけは、小学校の持久走のため、祖父と姉と毎朝練習したこと。5年から本格的に練習を始めたが、当時のメインはミニバスケットボールだった。趣味はピアノ演奏。勝負メシはホッケ、うなぎ。154センチ、37キロ。

脈拍30台 強い体感 山盛りご飯 小出流指導

▽ブレークの秘密

高校時代に都大路を走れず、全国的に無名だった不破のブレークにはいくつも秘密がある。群馬の永井聡監督(51)は練習を見て感心した。「息をしていないんじゃないか」。驚異的な心肺機能の持ち主だ。拓大で指導する五十嵐監督によれば脈拍数は1分間に30~35。「脈拍数が少ない。天から与えられた素質をどう生かすか」。00年シドニー五輪金メダリストの高橋尚子さん、瀬古利彦さんや宗兄弟の全盛期に匹敵する。

ボディーにも優れる。五十嵐監督は「体幹の強さがある。軸がブレないのが一番の強さ」。ロード10キロも最後まで上体と下半身の横ブレがない。拓大入学後、体幹トレーニングに着手。練習前に約30分間取り組む。

昨年末、不破は高橋さんに助言された。「ちゃんとご飯、食べないとダメだよ」。高校時から故障、貧血に悩まされた。不破は「食べるようになって疲労が抜けやすくなった。ご飯は茶わんに盛ったくらいだったのが、山盛りです」。入学時の35キロから2キロ増えた。

五十嵐監督は指導の信念がある。「その子に合った練習を探れ」。4年間師事した、故小出義雄さんに教わった。不破が入学すると中学・高校時代の練習日誌を7冊読み、練習過多でケガをする傾向を把握。「聖衣来の練習量は他の人なら全然足りないくらい」。朝練習は1人だけジョグの日も。練習させすぎない。強さの裏に小出さんの後押しもあった。【酒井俊作】