<陸上:全日本大学駅伝>◇4日◇愛知・熱田神宮~三重・伊勢神宮(8区間106・8キロ)

 駒大が鮮やかな逆転劇で、5時間12分43秒の大会新記録で2年連続10度目の優勝を果たした。7区まででトップを走る東洋大に1分7秒差をつけられたが、アンカーの窪田忍(3年)が力走。10月の出雲駅伝で5位に終わった悔しさから丸刈りにしたエースが13キロ付近で追いつくと、15キロ手前で突き放して、2年前の早大の大会記録を19秒塗り替えた。

 邪魔する者は、誰もいなかった。伊勢神宮に設けられたまっさらなゴールテープを、窪田は満面の笑みで切った。駆け寄った仲間に、丸刈りの頭を何度もなでられた。それが気持ちよかった。昨年もアンカーで逃げ切り最初にテープを切ったが、東洋大・柏原の猛追を受けた。今年は追い抜いての逆転優勝。「昨年はみんなに助けられて優勝できたけど、今年は僕が貢献しようと思った。昨年の数倍うれしい」とはにかんだ。

 第7中継所でタスキを受けたとき、首位を行く東洋大との差は今大会最大となっていた。1分7秒。「40~50秒ぐらいなら…」という大八木監督の思惑は外れた。だが、エースの心は違った。「昨日オーダー表を見たとき、1分半くらいなら、と思っていた」。

 ペースを上げつつ、頭は冷静に保った。中間点で22秒差に迫り、追うべき背中がはっきり見えた。だが、焦らない。「追いつこう」でなく「追いついたときにどうするか」を練った。13キロで背中につくと1度、前に出た。相手の余力を確かめ、揺さぶる。勝負どころを見極めた。選んだのは14・7キロ。一気に突き放した。後はもう、ひとり旅。57分32秒の力走だった。

 2月の丸亀ハーフで学生歴代2位の1時間1分38秒で走るなど、学生トップランナーに君臨するも「エース」という称号は嫌った。それが変わった。大八木監督が口にする藤田敦史、宇賀地強ら歴代の「強いエース」の話に影響を受けた。「最低限の走りをするのでなく、ここぞという勝負に勝てる。それが強い選手」。そうなりたいと思った。

 自分の責任と向き合った。昨年から主力がほとんど残りながら出雲で優勝を逃すと、1年生以来という丸刈り姿で現れた。驚いた仲間も数人同調し、丸刈り軍団が結ばれた。主力だけだった話し合いは、全員参加に変わった。丸刈りから、団結した。「この髪形は好きじゃないので、できれば伸ばしたい」と笑う。V10を達成した同監督は「窪田あってです」とたたえた。

 昨年は全日本を制しながら、箱根は2位に終わった。「それが一番、心に残っています。今度は絶対に勝ってやる」。4年間遠ざかる箱根の頂点。最速軍団が、次を見定めた。【今村健人】

 ◆窪田忍(くぼた・しのぶ)1991年(平3)12月12日、福井県鯖江市生まれ。鯖江高-駒大。自己ベストは5000メートル13分49秒53。1万メートルは5月の日本選手権で5位入賞を果たした28分7秒01。2月の丸亀ハーフで1時間1分38秒の駒大新記録をマークした。大学駅伝では10年全日本6区、11年箱根7区、同出雲6区、12年箱根9区でそれぞれ区間賞を獲得した。167センチ、53キロ。血液型O。