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注目選手インタビュー 佐藤悠基 後編

 実業団男子の駅伝日本一を決めるニューイヤー駅伝が13年1月1日、群馬県庁前を発着する7区間100キロで行われる。この大会に出場する有力選手インタビューの最終回は日清食品グループの佐藤悠基(26)の後編だ。

 日本長距離界のエースである佐藤に、陸上に対する熱い思いやトレーニングのこと、私生活のことなどを聞いた。

 聞き手ははフルマラソンで2時間43分36秒の記録を持つ市民ランナーの鈴木莉紗さん(28)。

※インタビューは11月27日に行いました。

 

鈴木:佐藤選手は本番に強いというイメージがあります。大事な試合で力を発揮できるコツみたいなものはあるんですか?

佐藤:いかに試合の時に自信を持ってスタートラインに立てるかだと思っています。いい練習ができていれば、いい結果を残せるという自信はあります。スタート時に強気な時は結果につながっていますね。「絶対、こいつには負けるはずがない」と思っていられるかどうかですね。海外のレースに行った時には周りの選手を見て「強そうだな」と思ってしまうことがあります。そういう時は勝てないですね。しかしタイム的に格上の選手と対戦することもあります。そういう時は胸を借りて記録を出そうという気持ちで挑みます。高校時代に記録が出ていた時は、大学生や実業団の選手と一緒に走って勝負にこだわらず自分が挑戦者の気持ちだった時ですね。

鈴木:佐藤選手は5000メートルから20キロを超える距離まで、どの距離でも万全に走る自信がありますか?

佐藤:はい。スピードトレーニングの一環で1500も走りますが、1500からマラソンまで走れるランナーを目指しています。マラソントレーニングにも1500の練習を取り入れるべきだと思っていますから。今まではそういった考えの選手がいなかったと思うのですが、今の時代はマラソンも「いかに速く走れるか」が勝負を分けます。スピード感覚は大事にしたいですね。

鈴木:その思いは世界陸上や五輪でエチオピアやケニアの選手と走った時に感じるものなんですか?

佐藤:そうですね。スピードに余裕がないとペースの上げ下げがある中で対応していけませんからね。1500メートルをやっていれば、スピードの面で1万を走る時に楽に感じられると思っています。マラソンというと長い距離を走るトレーニングを考えがちですが、今の時代はスピード練習も大切だと思います。

鈴木:それは市民ランナーにも当てはまりますか?

佐藤:そうですね。鈴木さんのようにある程度レベルの高いランナーの方には、スピードトレーニングは重要になってくると思います。僕らのレベルだと3分ペースが速く感じるか、遅く感じるかなんです。遅く感じれば気持にも余裕ができて3分(ペース)で押せる距離が増えます。でも脳がきついと感じる身体も動かなくなってきますからね。

鈴木:私はレースで遅れてしまうと「あー、もういいや」と思って(レースを)投げてしまうこともあるのですが、佐藤選手はそういう気持ちになることはないですか?

佐藤:やめたいなーと思うこともありますよ。昨年のテグの世界陸上の時(1万メートルに出場)は半分も行かないうちに先頭集団と離れてしまって、そこからは長く感じたので、やめたいなーとずっと思っていました、でもさすがに日の丸をつけているのでやめられないですからね。そういう思いしたくないので、練習でどれだけ頑張れるかだと思うんです。練習の時にレースで悔しい思いしたことを思い返すと意外と頑張れるんですよ。

鈴木:トップ選手でもそういうことってあるんですね。安心しました。ところで今年3月に結婚されましたが、家族ができて競技に対する心境の変化はありますか?

佐藤:心境の変化はそんなに無いです。あるかと思ったんですけどね(笑い)。これまでの競技に対するスタイルが自分には合っていると思うし、それを変に変えたくないので、家族の理解を得ながらうまくやっていければいいと思います。最終的に家族のためにと思えるようになるといいとは思いますが、現状では普段の練習や試合の中ではあまり変化はないです。

鈴木:食事の管理は奥様が行ってらっしゃるのですか?

佐藤:朝食は作ってもらっています。でも妻も働いていて忙しいので、夕食を作ってもらうのは週の半分ぐらいですね。残りは独身時代と同じように、会社が提携しているファミリーレストランや食堂で食べます。それと合宿などで年間の3分の1は家にいないんですよ。妻が家にいる時は夕食を作ってくれるのですが、栄養バランスを考えてくれています。料理のセンスはある方だと思いますね。何を作ってくれてもおいしいです。「何を食べたい?」と聞かれるんですけど、「何でもいい」と答えています。出てきたものがおいしいですからね。

鈴木:練習の時に工夫されていることはありますか?

佐藤:気が乗らない時はスパッとやめますね。ダラダラやっていても効果は上がらないですから。ポイント練習の時でもやめるし、脚に違和感を感じた時もスパッとやめます。その日の体調に合わせて、練習を調整することが重要だと思います。高校や大学の時は気が乗らなくてもやらされてる感があったんですが、実業団になってからは自主性に任せられているので、メリハリのある練習ができて、それが結果につながっているのだと思います。

鈴木:「自主性」という言葉が出てきましたが、自主性を持って練習をするというのは難しいことですよね

佐藤:そうですね。「自分が強くなりたい」という思いがあれば、自主性を持って練習も生活も送れると思っています。抜くときは抜いて、やる時はやるというONとOFFの切り替えが重要ですね。チームや監督からは自由にやらせていただいてますが、その分、結果を残さなければいけないと考えています。

鈴木:佐藤選手の月間走行距離はどれくらいですか?

佐藤:僕は選手の中では少ない方だと思います。ロードシーズンに入ると7〜800キロぐらい走りますが、トラックシーズンだと600キロ台ですね。今の学生は月間1000キロぐらい走りますから、彼らの方が多いですよね。僕は月間1000キロ走ることははほとんどないです。夏合宿でも900キロぐらいです。僕は試合を強度の強い練習だと考えています。冬場に練習で貯めを作っておくことが前提となりますが、もし目標を日本選手権に合わせるとすると、選手権の前に1500メートルのレースを1本入れて、日本選手権の1週間か2週間前に5000メートルのレースを1本入れて、日本選手権の1万メートルに出るというパターンですね。試合と試合の間はダメージを抜きながら軽い練習にしています。ある程度のレベルになると、質の高い練習をするようになるので、その上で練習量を増やすとオーバーワークになってしまうと思いますから。

鈴木:腹筋や背筋などの補強はしてますか?

佐藤:いわゆる普通の腹筋、背筋トレーニングはやらないです。僕がよくやっているのは腹筋ローラーです。入社して半年ぐらいしてから始めて、1カ月ぐらいで効果が出ていると感じましたね。腹筋も鍛えられますが、背筋も鍛えられるので上半身が安定するようになってきました。上半身が安定すると下半身にうまく力が伝わって、しっかり前に進む効果があります。暇な時に時間を見つけてやるようにしています。

鈴木:私も始めようかなー。

佐藤:始めた当初はすごくきつくいですよ。僕も膝をついて10回を2セットやったら、3日間ぐらい筋肉痛で腹が痛かったです(笑い)。最初はひざをついて回数も少なめにやって、少しずつ回数を増やしていくのがいいですね。

鈴木:治療院へ行く身体のケアの頻度はどれくらいですか?

佐藤:僕は1週間に1〜2回入れたいと思っています。そうすることで身体の状態を把握できますからね。でも1カ月間、まったく治療をしない時期もあえて作っています。感覚的なものかもしれないのですが、定期的にやっていると、筋肉が弱くなっているように感じるんです。治療を入れないことで筋肉がタフになるような気がします。それが僕には合ってますね。

鈴木:セルフケアもしますか?

佐藤:テレビ見ながら自分の脚を触ってマッサージしますね。高校の時からのやっていたので、癖になっていますね。出かけた時もちょっといい傾斜があるとストレッチをしてしまいます。職業病ですね(笑い)。買い物に行っても、エスカレーターの所でふくらはぎ伸ばしたりしますから。

鈴木:競技をやめたいとか、練習がつらいとか思ったことはないですか?

佐藤:練習をつらいと思うことはありますが、競技をやめたいと思ったことはないですね。好きで走っているし、好きなことを職業にさせてもらっているのは幸せだと思っています。今の環境も恵まれていますからね。できればあと20年ぐらい続けたいですね。身体が持つ限りやりたいですね。

鈴木:これまでに誰かから言われた言葉で印象に残っているものはありますか?

佐藤:高校の時に、両角先生(現東海大陸上部監督)から「競技力を上げるには、まずは普段の私生活からしっかりしていないといけない」と言われました。それは今でも心がけていますね。

鈴木:目指している記録はありますか。

佐藤:1万メートルでは日本記録を出して、27分30秒を切りたいですね(現在の日本記録は高岡寿成が2001年に記録した27分35秒09)。大学生のレベルが上がっているので、下のレベルの記録は高くなっていると思いますが、頂点が伸びてないと思うんです。誰かが27分半という壁を破れば、日本選手全体の記録が伸びていくと思うんです。その壁を自分が破りたいですね。5000メートルは大学2年の時に13分23秒を記録したんですが、それを更新できていないので、それが生涯ベストにならないように、13分20秒を切りたいですね。

鈴木:来年はモスクワで世界選手権が行われます。目標は?

佐藤:もちろん出場して、1万メートルで後半まで集団にくらいつきたいです。レースの最後の本当の勝負が始まるところまでついていけば順位もそれなりになると思います。

鈴木:今日はありがとうございました。ニューイヤー駅伝、頑張ってください。

◆佐藤悠基(さとう・ゆうき) 1986年(昭和61年)11月26日、静岡県駿東郡清水町生まれ。中学3年時に3000メートルで8分24秒24の中学記録を樹立。長野・佐久長聖高時代は2年時の全国高校駅伝の4区で区間新記録(22分44秒)、高校3年時には1万メートルで28分07秒39の高校新、全国都道府県対抗男子駅伝の1区区間賞などの成績を残す。東海大では箱根駅伝で1年から3年まで区間賞。4年時も区間2位。2009年に日清食品グループ入社。11年世界陸上テグ大会、12年ロンドン五輪出場。178センチ、60キロ。

◆鈴木莉紗(すずき・りさ) 1984年(昭和59年)9月7日生まれ。2011年上半期にランニング雑誌「ランナーズ」の表紙を飾った美人市民ランナー。もともとは普通のOLだったが約3年前に走り始め、1年半でサブスリーを達成。フルマラソンのベスト記録は2時間43分36秒(2012年2月東京マラソン。日本人女子10位)。今年11月18日の横浜国際女子マラソンにも出場した。現在は加圧ジムのトレーナー。

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