いよいよ陸上界今年最大のイベント、モスクワ世界陸上が開幕する。ウサイン・ボルト(26=ジャマイカ)という大スターの活躍が期待される一方で、シーズン前半は大物選手の不調も目立った。また、大物ニューフェイスの台頭している種目も多く、リオ五輪に向けてのスタートは波乱含みの展開となりそうだ。

 世界陸上前半最大の注目は、2日目の男子100メートル決勝に出場するボルトの記録である。

 シーズン序盤は「今季のボルトは世界陸上で負けるのでは?」と言われたが、好記録を連発していたタイソン・ゲイ(30=米国)のドーピング違反が発覚。前回優勝者でロンドン五輪銀メダルのヨハン・ブレイク(23=ジャマイカ)は故障で欠場する。ライバル不在となったのだ。

 ボルトの状態も上がってきた。7月26日のダイヤモンドリーグ・ロンドン大会では9秒85の今季自己最高で優勝。レース後半で他を圧倒するボルトらしい走りが戻ってきた。

 そしてオリンピックや世界陸上になると爆発的な走りをするのがボルトの特徴。9秒7前後は十分に期待できる。公認範囲である追い風2mに近い風速となれば、自身が持つ9秒58の世界記録更新も不可能ではない。

 ロンドン五輪で100メートルと200メートルで連続金メダルを獲得し、“生きる伝説”となったボルトに、新たな伝説が加わるかもしれない。

 女子の100メートルと棒高跳び、そして走り幅跳びは新旧対決が白熱する。

 今大会の台風の目となるのが女子の100メートル、200メートル、走り幅跳びの3種目でメダル圏内にいるブレッシング・オカグバレ(24=ナイジェリア)だ。大会2日目の走り幅跳びでは、テグ世界陸上とロンドン五輪連続金メダリストのブリットニー・リーズ(26=米国)と対決する。

 3日目の女子100メートルでは五輪連続金メダルのシェリー・アン・フレイザー・プライス(26=ジャマイカ)が立ちはだかる。直前のダイヤモンドリーグ・ロンドン大会では予選でフレイザー・プライスが10秒77の今季世界最高をマークし、決勝ではオカグバレが10秒79の今季世界2位記録で優勝した。注目度の高い対決となる。

 4日目の棒高跳びは地元ロシアの女鳥人、エレーナ・イシンバエワ(31)が今大会を花道に引退する。今季はダイヤモンドリーグ上海大会に勝ち、昨年よりも好調なのは確か。だが、5メートル02とイシンバエワの室内世界記録を破ったジェニファー・サー(31=米国)と、屋外で4メートル90の世界歴代3位と好調のヤリスレイ・シルバ(26=キューバ)の方が勢いはある。

 イシンバエワがこれまでの経験を、最後で生かせるかどうか。

 また3日目の、男子110メートル障害には世界記録保持者のアリエス・メリット(28=米国)が、ダイヤモンドリーグ・ロンドン大会で5台目を引っかけて失格。メリットの復調が注目されるが、誰が勝ってもおかしくない状況になっている。

 ニューフェイスが台頭したのが男子走り高跳び。今季になってボーダン・ボンダレンコ(23=ウクライナ)が2メートル41、ムタス・エッサ・バルシム(22=カタール)が2メートル40と、2人が自己記録を大台に乗せてきた。バルシムは故障をしたのかダイヤモンドリーグ・ロンドン大会で低調な記録に終わったが、ボンダレンコは2メートル47の世界新に挑戦した。

 大会6日目の決勝で再度、世界記録にチャレンジするだろう。

 好記録が期待できるのは男子の400メートルと棒高跳び。

 ロンドン五輪を43秒96で制したキラニ・ジェームズ(20=グレナダ)は43秒台前半も期待できる。ラビレニ(26=フランス)はダイヤモンドリーグ・ロンドン大会で6メートル02の世界歴代7位に成功したばかり。

 400メートルはマイケル・ジョンソン(米国)の43秒18、棒高跳びはセルゲイ・ブブカ(ウクライナ)の6メートル14と、“陸上界の伝説”ともいうべき選手が世界記録を持つ。今大会での更新は難しいかもしれないが、そこに挑戦できる選手が育ってきている。【8月前半の主な陸上競技大会】8月10日~18日:モスクワ世界陸上