全国JOCジュニアオリンピックカップ春季水泳競技大会が、3月27日から30日まで、東京辰巳国際水泳場で行われた。スイマーの中では「JO」と呼ばれる大会だ。

 9歳以下から18歳の年齢区分とチャンピオンシップに分けられている。もちろん、水泳はタイムの競技なので、それぞれの年齢で出場するための標準記録があり、各都道府県での予選会でタイムを突破することが必須である。いわば、トップスイマーへの登竜門だ。

 毎年、春季と夏季に行われ、春季は短水路(縦25メートル)夏季は長水路(縦50メートル)で行われている。ジュニアの選手たちは、年にたくさんの試合がある。その中でも全国大会であるJOは、毎年4月に行われる日本選手権に出場することを目標にする選手には大切な大会であり、既に日本選手権の標準記録を突破している選手、経験している選手にもJOはより同世代のライバルとの戦いに、勝っていかなければならない大会だ。日本選手権は、毎年何らかの世界大会の選考会になっている。今月に名古屋で行われる日本選手権は、ハンガリーで開催される世界選手権の代表選考が1番の目的となる。

 その日本選手権に出場して決勝に残り、さらには自由形以外の種目においては、確実に表彰台に登らなければ日本代表入りはない。つまりJO出場はトップを目指す上で通らなければならない道となる。

 これまでのオリンピック選手は、ほとんどがこのJOを経験しているだろう。私自身も現在と年齢区分は異なるが、初出場は9歳の時だった。それから18歳までJOに出場していた。種目は、1番得意な泳法である、背泳ぎに出場した。競泳で1番得意な泳法を「スタイルワン」と呼ぶ。つまり、私にとってのスタイルワンは背泳ぎだった。

■五輪に行けば上には上がいる

 以前は、スタイルワンの種目だけに出場することが一般的だったが、最近は海外の選手たちを始め、日本人選手も数々の種目をこなしている。海外の選手では、米国の金メダルを23個も獲得している「レジェンド・スイマー」マイケル・フェルプス選手は、数多くの種目に出場する先駆的な選手だった。フェルプス選手が引退した今も、それは記憶に新しい。

 日本人選手では萩野公介選手が背泳ぎに出場するなどあったが、ここで注目したいのは16歳の池江璃花子選手だ。池江選手は3日目の決勝で50メートル自由形の短水路で日本新記録を出した。この日で長水路、短水路、リレーを含めて11種目の日本記録保持者になった。2月に行われた東京都選手権でも200メートル自由形で1分56秒33の長水路日本記録を出し、安定した強さを見せている。「スーパー高校生」と言われている池江選手は、昨年のリオデジャネイロ・オリンピックが大きな経験となっている。オリンピック前の印象とは変わって、一皮むけたと感じる。オリンピックはやはり選手にとっては特別だ。世界最高峰の試合であり、世界が本気になる場所だ。上に行けば上がいる。そんなことを感じたのではないか。

 私が出場した2008年北京オリンピックの決勝の招集所である出来事があった。今まで「なんか雰囲気怖いな」と、そう感じていたライバルの選手がいきなり決勝に残ったほかの7選手に握手を求めてきた。うれしい半面、「作戦なのかな」とも感じた。そして終わった後は、8人とハグをした。なんだか、ずっと一緒にライバルだった選手が仲間になった瞬間だった。ほかの試合ではなかなかこんな感情が高ぶらないだろう。

 そんなオリンピック。池江選手は16歳での初出場となり、どんなレースをしてくれるのか楽しみだった。100メートルバタフライで予選、準決勝、決勝で日本記録を更新し、6位に入賞した。あの場所で、しかも海外の選手が得意とする100メートルで物おじせず1本、1本のレースをこなしていく姿に「未来」を感じた。

 リオデジャネイロ・オリンピックから8カ月。池江選手は進化を続けている。4月13日から16日に名古屋市の日本ガイシアリーナで行われる日本選手権では、バタフライの50メートルと100メートル、自由形では50メートル、100メートル、200メートルの計5種目にエントリーしている。

 周囲の期待とは別に、自由に、思いっきり泳いで欲しい。

【伊藤華英=北京五輪、ロンドン五輪競泳代表】