「スポーツで稼ぐという風土を作る」

 2015年10月にスポーツ庁が発足した。長官に就任した鈴木大地氏によって、こう明言された。日本は東京オリンピック・パラリンピック開催に伴い、スポーツを産業として展開していく姿勢になってきている。私はそれが悪いことではないと感じており、スポーツの価値やアスリートの価値をさらに高めるためにも必要なことだと感じている。

 米国では100年以上も前から大学スポーツの産業化が行われている。大学で行われるアメリカンフットボールや、アイスホッケーの人気が拡大するとともに、学生アスリートのケガや学業へのサポート、つまり学生を守るために作られたとも言われている。一方、日本でスポーツのイメージと言えば、教育の中に取り入れられた「体育」や、部活動というイメージだ。そのイメージは正しく、19世紀以降に日本のスポーツ産業の歴史は始まる。学校教育に体育が導入され、それを機にスポーツ用品の納入に際して、地域のスポーツ用品店が学校の指定を受け、商品の受注により利益を上げている。このように、学校体育からスポーツ産業はスタートしているのだ。つまり、現在もスポーツは教育というイメージが少なくともあるのではないか。体育ではなく、楽しむことや人生の活力にするという、スポーツの概念の認知はまだ少ないように思う。しかし、スポーツ実施率などの調査からは、少しずつ、生活の中にスポーツが組み込まれてきているとも思う。

 近年の日本では、スポーツ施策をビジネスとして構成していこうと考え、有識者を集めて議論を行っている。そんな中、米国の大学スポーツ「NCAA(全米大学体育協会)」をモデルとした大学スポーツの産業化を進めている。先日もシンポジウムに参加してきた。

 基調講演では、ラグビーの大学選手権を8連覇した帝京大学を指揮する岩出雅之監督が登壇した。岩出監督は「学生を守る」ということを強く話した。そしてガバナンス(法的な統治システム)や、リスク管理、健康安全、コンプライアンス(法令遵守)などを確立していくこと。「人を育てるから人が育つ」つまり、主体的であることが大切であるといことだろう。

 「NCAA化のゴールは、スポーツが社会を豊かにすること」

 現在、米国のNCAAには、2300校のうち約1200校が加盟しており、1906年、ルーズベルト大統領から大学スポーツの改革の要請を元に発足し、競技規則の管理だけでなく、大学スポーツクラブ間の管理や連絡調整などの運営支援を行っている。

 米国の大学スポーツは三層構造になっている。大学があり、大学は地域リーグ(カンファレンス)に分かれ、その地域リーグを統括するのがNCAAである。現在のNCAAとしての収入は年間約1000億円(2014年)。またこれらは、規定に則り、各カンファレンス経由で各大学に配分される。カンファレンスでのビジネスもあり、産業として成立しているようだ。その大学スポーツ全体の収入は年間約8000億円(2010年)程度と推測されている。

 つまり日本でも、大学スポーツの産業化が進めば大きな市場が生まれる可能性があるということだろう。課題は数多くあるが、大学という限定的な場所ではなく、スポーツという大きな枠の中で学生が競技をすること、教育を受けること。何と言っても学生を守ること。「なんとなく」だったものが明確になり、目標も定まっていくだろう。さらに日本版NCAAの構築により専門性の高い人材を派遣することも出来るようになっていくと思う。

 アスリートや子どもたちが、スポーツすることで未来が輝いて見えなければ目指すこともなくなるだろう。輝くアスリートやアスリートを目指す子どもたちを大切に考えたい。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)