私は、いつも刺激を受ける人物がいる。プロサーファーの出川三千男(みちお)さんだ。
出川さんは、1950年(昭25)年生まれ。60年代からサーフィンを始め、今も湘南に住みサーフィンを愛している。肩書は数知れず、ボードをつくる「シェイパー」としても活躍し、ショップオーナーを務めるほか、日本プロサーフィン連盟(JPSA)を設立し、現在は名誉顧問に名を連ねる。
いつも明るく、エネルギーたっぷり。年齢を感じさせない海の男という感じだ。久々に会うと「華英、白いぞ! 海に入ってないな」。出川さんのオープンマインドに触れるといつも安心する。
- 広い空と海をバックに出川三千男さん(右)と筆者
「サーフィンが“インフルエンサー”の言葉の走りだよ。60年代から、インフルエンスするなんて言ってたもんだ」
サーフィンこそが、「ライフスタイル」に根付いたスポーツだという。
当時、流行っていたスイムウエアの「Jansen」というメーカーがキャッチコピーに使用していたことが始まりだ。
65年ころからのサーフィンは本当に面白かったという。ライダーにロゴの入った、Tシャツを着せてそのTシャツを見た人たちが、そのライダーが着ているものに、インフルエンスされる。
現在は、選手をサポートして広告として起用するなんてことは当たり前になっているが、そう言った面でも、産業の先駆けだったのだろうか。
私も人生を豊かにするものはスポーツであることが多く、特に水泳出身ということもあり、サーフィンは頭がスッキリするし、自分の正しい思考に近づくことができる。私は、サーフィンを「カウンター方式」と呼んでいる。
なぜかというと、食事の場面において、カウンターで話をするとお互い同じ方向を向いて話す。なんだか気恥ずかしい気持ちも解け、会話が弾むものだ。個人的な意見ではあるが。
サーフィンは波に乗るスポーツであるから、波待ちをする瞬間が訪れる。そんな時、たわいもない話でコミュニケーションが取れるものだ。水平線を見ながらの会話は気持ちがいい。特に海外では、気さくに話してくれるサーファーも多く、そのビーチ近くの地域のことをよく知れたりして、とても充実した時間になる。
- 出川三千男さん(右)と筆者
そんなコミュニケーションについても出川さんは「サーファーはネットワークが大事なんだ。昔はインターネットがない。人とのコミュニケーションが波のことや天気を知る術だった。細かいネットワークが必要だ」。その通り、ネットサーフィンなんて言葉もこのことから連想できる。
私はなぜかサーフィンが好きだし、「なんで好きなの?」と聞かれると、なんだか分からないが気分がいいし、天気や海の状態で出来ないこともあれば、出来ることもある。突然の“いい波”に出会えることもあるし、出会えないこともある。自然と触れ合うところが好きだと言えばいいだろうか。
海と長く付き合って来た出川さんは、サーフィンはスタイルが大切だという。サーフィンは、結果じゃない。なんだか気持ちがいいものでいいのだという。時間で争うものでもなければ、スコアを争うものでもない。満足感をすぐに感じられる。そう感じるスポーツだ。
今後、スポーツが社会に根付くヒントはサーフィンにある気がしてならない。
(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)