箱根駅伝4連覇中の青学大・原晋監督(51)が今思うこと感じたことを記す「原監督のハッピー大作戦」。第3回のテーマは前回に続き高校野球。常識を超えた提言が飛び出した。

 100回目の今大会はもつれて、盛り上がる試合が多く、やはりテレビの前に釘付けになってしまう。高校生たちの全力プレーを見ているうちに、自らと同じ指導者、監督のことを考えることが多くなった。それはプレーイングマネジャー、つまり「高校生監督」の育成についてだ。また高校野球を知らない原が、馬鹿なことを言っていると思われるかもしれないが、少し聞いてほしい。

 「高校生監督」の誕生は、高校生が自ら考え、自ら行動することにつながると思う。練習計画から、高校生中心で話し合い、方針を決める。試合では主将らが指示を送る。単なる監督のロボットではなく、個々が自分の意志を持ち、それを伝える。もちろん、時には上意下達は必要だし、大人のアドバイスも大切。大人の監督はGM的な立場となり、現場は選手に任せていく。そうすれば、将来的にも指示待ち人間ではなく、発想豊かで社会に出ても、より役立てる人間が育つ気がする。

 自分の指導哲学の1つに「将来、社会で役立つ人間にする」というものがある。だからこそ、04年青学大監督に就任後は、選手を奴隷のように服従させる方法は排除。自分が住み込む学生寮でも、掃除など雑用は学年関係なく、持ち回りでやっている。逆に4年が率先してやれと指導する。

 支配型の指導法は、確かに即効性はある。だが長期的な発展性はないし、学生の将来にもつながらない。だから、自分は1年生にも意見を言わせる。逆に「ハイッハイッ」と、自分の意志、意見を持たず、ただ指示を待つだけの学生はいらない。選手が自分の言葉を持ち、自主的に考え、行動できるような指導を心掛けている。

 今の学生は、理屈を教えれば、理解して自ら進んで向上する人間が多いと感じている。最近は何か問題が起きても、学生たち自らが問題を洗い出し、解決へ努力する。「監督」のようにチーム全体を考える選手も増えた。箱根駅伝4連覇も組織が成熟してきた結果だと実感している。

 賛否両論のあった松井秀喜選手への5連続敬遠。「高校生監督」が采配をふるっていたら、チームメートに指示を出していただろうか。戦う当事者たちは「勝負したい」との思いの方が強いのではないか。5連続敬遠の采配を否定するつもりはないが「高校生監督」なら、その選択はなかったと思う。

 「高校生監督」を思い付いたのは、世の中の動きとスポーツ界がリンクしないといけないと考えるから。かつての大量生産、大量消費の高度成長時代は、指示を忠実に聞く猛烈社員が好まれた。だが、今は働き方改革が叫ばれる時代。自ら考え、効率的に仕事をする人間が世の中に求められている。新しいスタイルを模索する若い指導者も増えていると聞く。いつか甲子園で「高校生監督」の姿を見てみたい。