プロボクシング前世界バンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)が、1階級上のWBC、WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン(米国)への挑戦を発表した。彼が最初に世界王座を獲得したライトフライ級のリミットは48・97キロ。スーパーバンタム級は55・34キロで実に6・37キロも重い。

ボクシングは1階級違うだけで、体力やパンチ力、耐久力に差が出るといわれる。だから、特にその影響が顕著な軽量級(ミニマム級からスーパーフェザー級)は、約1・3~1・8キロ刻みで階級が細分化されている。多くのボクサーは身体的な優位性を生かすため、自らに過酷な減量を課してリングに上がる。

それがボクシングという競技の常識である。そう考えると、井上というボクサーがいかに規格外で、今回の挑戦が常識を超えたものであることが分かる。なのに「井上なら当然」と思えてしまうのは、彼の完全無欠の強さゆえに、私たちの感覚がまひしているのかもしれない。これも『怪物』たるゆえんだろう。

世界王座が4団体に増えた近年は、複数階級制覇も珍しくなくなった。オスカー・デラホーヤ(米国)とマニー・パッキャオ(フィリピン)は6階級制覇。日本でもなじみのあるフロイド・メイウェザー(米国)やノニト・ドネア(フィリピン)らも5階級制覇を達成している。日本の井岡一翔も4階級制覇王者。

階級を上げれば対戦相手のパワーや耐久力も上がるわけで、下の階級で傑出していたパンチの威力も薄れる。強打者のドネアも5階級目のフェザー級ではKO勝利はなかった。一方、井上は階級を上げるにつれてパンチ力が増している。バンタム級統一戦は4試合ともKOでの圧勝。この事実は彼の適性階級がまだ上にあることの裏付けだろう。

井上が勝てば4階級制覇だが、実は彼はライトフライ級からフライ級を飛び級してスーパーフライ級に転向している。もしフライ級で世界戦が実現していれば、フルトン戦が5階制覇への挑戦になった可能性が高い。そう考えると少し残念だが、大橋秀行会長は「(さらに3階級上の)ライト級までいける」とも明言している。井上にとっては今回もまだ通過点なのかもしれない。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「スポーツ百景」)