こんにちは、スポーツアンカーの山田幸代です。今回も、このコラムのテーマである「海外選手の日本での挑戦」に沿って、海外から来日し、日本のチームに参戦している選手に焦点を当ててお伝えしていきたいと思います。

第6回は、日本のプロ野球界で活躍する読売ジャイアンツ所属のゼラス・ウィーラー選手に取材をさせていただきました。取材は8月下旬、オンラインで行いました。

ゼラス・ラマー・ウィーラーは、アメリカ合衆国アラバマ州タラデガ郡チルダーズバーグ出身のプロ野球選手。右投げ右打ち。身長178センチ、体重100キロ。ウォーレス州立短大-ブルワーズ傘下マイナー(2007~11年)-オリオールズ傘下マイナー(2012~13年)-ヤンキース(2014年)-楽天(2015~20年)-巨人(2020年~)。

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8月22日、DeNA戦でソロ本塁打を放ったウィーラー(撮影・たえ見朱実)
8月22日、DeNA戦でソロ本塁打を放ったウィーラー(撮影・たえ見朱実)

私は小さい頃から野球が好きで、多くの外国人選手を見てきた。阪神ならバース選手、マートン選手、横浜のクルーン投手、西武のカブレラ選手、ソフトバンクのバレンティン選手。記憶に鮮明に残る選手はたくさんいる。これらの選手は、おそらくファンから「最強の助っ人」と呼ばれる選手たちだと思う。

しかし私はウィーラー選手には「助っ人」として応援する以上のものがある、といつも試合を見ていて感じる。日本人、外国人に関係なく、ファンに「愛されている」選手だと感じるのだ。

その理由はなにか。

ウィーラー選手のプレーには、チームに対しての情熱と愛情が感じられ、そして何より明るい雰囲気をチームにもたらしてくれる。

どうしたら、このようなモチベーションでプレーができるのか。他の海外選手に持っていない何かがあるのではないか。私はそこをポイントに、本人にうかがうことにした。

今回もコロナの影響で直接会ってのインタビューをさけ、オンラインでの取材となったことで、本人の表情を直接見られない悔しさはあった。ただ、画面越しでも一瞬でウィーラー選手の人柄が感じることができた。

8月24日、広島戦で大城を迎えるウィーラー(左)
8月24日、広島戦で大城を迎えるウィーラー(左)

ウィーラー選手は、とても落ち着いていた。正直、もっと第一声から明るく元気なところを前面に出してくるのかと想像していたが、表情は柔らかく、それでも真剣なまなざしだった。

単刀直入に「なぜあなたはファンからここまで愛されるのだと思う?」と投げかけた。ウィーラー選手は一瞬にして顔がほころび、笑顔で「そうなの?!うれしいね!」と答えた。

意識的に作っているわけではなく「自然とパッションが湧いてきて、チームのために楽しくプレーできる」という。「チームにいい影響をもたらしたいし、チームメートのために自分にできることをやろうと思っているだけなんだ」。試合中に明るく振る舞えるとか、楽しめたりするのは「自分のパーソナリティーだし、両親の育て方にも感謝している」と話した。

8月22日、DeNA戦で本塁打を放ち、ベンチ前で、くるりんぱをするウィーラー(撮影・狩俣裕三)
8月22日、DeNA戦で本塁打を放ち、ベンチ前で、くるりんぱをするウィーラー(撮影・狩俣裕三)

初めて日本でプレーしたのは、2015年の楽天だった。「1年目は本当につらかったし、大変だった」という。日本の環境だけでなく、チームメートとも慣れていないし、練習も含めた日本の野球に慣れていなかった。なにより、期待して自分を獲得してくれた楽天に対し、自分のプレーで結果をもたらさなければいけないと、「自分自身にプレッシャーをかけすぎてつぶれそうなくらい、つらかったよ」。

1年目の成績は、91試合出場で14本塁打、50打点、打率.255。それほど悪いようには思えないのだが、そのプレッシャーは計り知れないものだったのだろう。話している時の顔は確かにつらそうだった。それでも「みんなも英語で話しかけてくれたり、生活しやすい環境を作ってくれたことにも感謝している」と言った。

取材の中でウィーラー選手から、たくさん「感謝」や「パッション」という言葉を聞いた。正直、プロ選手だから、日本に移籍をすると決めたのは金銭面のことが大きいし、すぐに家族にも相談したという。

でも、彼の中では金を稼ぐことが一番の目的ではなく、自らのプレーでチームを盛り上げ、自らのパッションからファンも同時に笑顔にしていくこと。それが最大の目的なのだと、話の中で感じた。

彼はうれしそうに、こう話した。


 ウィーラー 僕はチームに必要とされるのであれば、出来るだけ長くこの日本でプレーをし続けたいんだ。読売ジャイアンツでプレーできることも光栄だし、楽天でプレーできたことも光栄だった。僕はアメリカの田舎生まれの選手だから、仙台はちょうどいい住み心地だったかなと今、東京にいて感じるよ。でも、日本という国がとても好きで、長くプレーをし続けたいね。


最後に質問を2つ投げかけた。

「あなたは野球が好きですか? 誰のために野球をやっていますか?」


 ウィーラー 僕は野球を愛している。この仕事が本当に好きで、自分はその好きなことを仕事にできていることが幸せだよ。僕の家族は僕以外誰も野球選手はいない。だからこそ思うんだ。僕は家族の代表として野球選手をやっている。それが家族のために野球をするということなのかもしれないが、ただ、野球をこれからもずっと愛して、楽しんでプレーしていくことは変わらないよ。


たくさんのファンから愛されるウィーラーは、「海外から来た選手」の枠にとどまらない存在となった。自らが野球を愛し、その情熱がファンの心を動かす、“愛される野球人”なんだと感じた。

(プロラクロス選手・スポーツアンカー 山田幸代)