「水泳ニッポン」の完全復活を目指して、世界選手権(7月開幕、ロシア・カザニ)に出場する競泳の日本代表25人が決まった。12日までの日本選手権で決まった代表選手たちは、13日から都内で強化合宿入り。ミーティングで「チームJAPAN」としての責任と自覚を植え付けられた。

 今回の目玉は「北島魂」の伝承だった。04年アテネと08年北京大会で平泳ぎ2冠に輝き、12年ロンドン大会でも400メートルメドレーリレーでメダリストとなった北島康介。今回は100メートル一本に絞って世界選手権を目指したが、3位で落選。代表復帰はかなわなかった。しかし、エースの魂は次代を担う選手たちに受け継がれた。

 ミーティングで選手たちに配ったのは、北島の「反省文」。日本水連では各大会後に代表選手たちにリポートの提出を求めている。大会前のトレーニングから大会中の反省、さらに今後に向けての課題や豊富などを書いたものだ。

 男子メダル0に終わった00年シドニー五輪後のリポートには「新たなる目標、決意等」の欄に「4年後はメダルを取れるよう、僕自身が引っ張っていけたらいいなと思っている」と書いている。言葉通りにアテネ五輪では金メダル2個を獲得し、エースとして日本をリード。強い意志で目標を実現させてしまった。

 日本水連の上野広治競泳委員長は「高校3年生で書いたものとは思えない。しっかりしていますよ」と話す。同委員長が今の日本チームに足りないと思っているのが「チームを引っ張るエースの存在」だった。だからこそ、北島の書いたものを選手たちの刺激にしたかった。日本選手権の大会中、代表落選の決まった北島に直接断り、快諾を得て披露したのだ。

 個人競技の競泳だが、日本はチーム作りを重視している。期待されながらメダル0に終わった96年アトランタ大会後、上野氏が代表のヘッドコーチに就任。一体感もなく、個人がバラバラに戦っていた集団を変えた。元高校の保健体育教諭が「全員で戦う」チームを作ってきた。

 日本が五輪メダルを量産した過去3大会は、常に北島がいた。エースとして、年長者として、チームを引っ張ってきた。ロンドン五輪で銀メダルに輝いたメドレーリレーの直後にはバタフライの松田丈志が「(北島)康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない、と話していた」と明かした。その存在感は圧倒的だったのだ。

 その北島がいないからこそ、今回の世界選手権ではエースが必要。ベテランになった背泳ぎの入江陵介なのか、ロンドン五輪400メートル個人メドレーで銅メダルを獲得した萩野公介か、同種目で世界選手権連覇を目指す瀬戸大也か。チームを引っ張る存在が現れることが、来年のリオデジャネイロ五輪へのカギになる。

 「競泳は(全選手)27人のリレー」。ロンドン五輪の時、こう言ったのは入江だった。リオへ、誰がこのリレーを引っ張るのか。世界選手権で金メダルを獲得すれば、リオ五輪代表に内定する。と同時に、その選手は北島に代わる「リーダー」としてチームを引っ張る責務を負うことになる。