ブラインドサッカー。フットサルのコートで、ゴールもフットサルと同じ。GKとFP4人で、25分ハーフの試合を行う。ただ、FP全員はアイマスクで視覚を遮られる。ブラジルにはプロ選手が200人いて、リーグ戦にも多くの観客が集まるという。そんな「もう1つのサッカー」の世界選手権が24日まで、東京・渋谷で行われた。

 聞いたことはあったが、見たのは初めてだった。準々決勝は冬の日差しを受けての試合だったが、全盲の彼らには光がない。見えない中で鈴が入ったボールを操り、見えないゴールを目指す。ゴールの後ろで指示を出す「コーラー」、サイドラインのフェンスの外から声を出す「監督」、そして「GK」。3人の晴眼者(視覚障害のない者)が、4人のFPの目となる。

 試合は中国に0-0からのPK戦で敗れた。目標としていたベスト4入りはならなかったが、守備は奮闘した。強豪の中国を0点に抑え、主将のFP落合啓士(37)は「プラン通りの試合ができた。守備はよかった」と話した。もっとも、3人がゴール前を固める守備重視の戦い方では、なかなか勝てないのも事実。魚住稿監督(38)は「点を取らなければ、勝ち上がれない」と悔しがった。

 5~8位決定戦に回った日本は、過去最高の6位で大会を終了。代々木競技場の裏手にあるフットサルコートは場所がいいこともあって、連日多くの観客が詰めかけて声援を送った。選手たちはボールの音や周囲の指示の声を頼りにプレーするから、インプレー中は音を出さず静かに見るのがルール。その代わり、プレーが止まった時には「ニッポン!」の声援が響く。

 驚いたのは、今大会で3連覇したブラジルだった。ドリブルがすごい。相手選手の間を縫うようにすりぬけ、強烈なシュートを決める。サイドチェンジなどのパス交換も普通にこなす。ゴール前に走り込んだ味方に合わせ、スルーパスまで出す。スタンドでは「絶対見えてるよ」と驚嘆の声。他のチームとはレベルが違う。たとえ視覚に障害があっても、サッカー「王国」の力は圧倒的だった。

 ブラインドサッカーが魅力的に感じたのは、晴眼者と視覚障害者が一緒にプレーすること。GKはFPと協力しながら、ゴールを守る。指示を出すコーラーもチームの一員だ。また、アイマスクを着ければ、誰でもプレーすることが可能。実際に選手の人数が不足することもある関東リーグなどでは、晴眼者が一緒にプレーしているという。

 大会アンバサダーを努めた日本サッカー協会理事で元日本代表MFの北沢豪氏は「ブラインドサッカーは障がい者スポーツへの入り口になる」と話す。見えないということ以外は、ルールも分かりやすい。障害のある者とない者が、一緒にプレーできる入りやすさもある。世界選手権では、多くの人が試合を楽しんだ。確かに「入り口」なのだ。

 20年東京パラリンピックに向けて、報道の立場でも障がい者スポーツを考えていかなければならない。過去にはスポーツと切り離して社会面でパラリンピックを扱ったこともある。しかし、今後はスポーツとして扱わなくてはならないし、スポーツとして見ていきたいと思う。そのための「入り口」として、ブラインドサッカーは確かに面白い。

 来秋には、16年のリオパラリンピック出場をかけたアジア予選が行われる。初のパラリンピック出場が、日本代表の目標だ。そこへの努力は、五輪競技とまったく変わらない。魚住監督や選手たちの熱い思いを聞いて、そう思った。